肩痛の原因となる「関節内インピンジメント(インターナルインピンジメント)」について解説していきます。
1.肩関節内インピンジメントの概要
肩関節の動作時痛を訴える場合には、どのような動きで、どこに痛みがあるかを聴取することが最も重要なポイントです。
例えば、肩関節を水平屈曲(対側の肩に手を持っていく動き:対側肩動作)させて肩後方に痛みを訴える場合は、肩関節後方組織の伸張時痛が疑われます。
反対に、肩前方に痛みを訴える場合は、肩関節前方組織に関節内インピンジメント(挟み込まれる)が起こっている可能性が推察されます。
関節内インピンジメントを理解するためには、トランスレーション理論を知っておく必要があります。
簡単に説明すると、関節周囲に短縮した組織が存在すると、骨頭は短縮側と反対にブレて関節包や関節唇、腱などを挟み込む現象をいいます。
このことを理解せずに可動域が制限されているからといってストレッチを指導すると、挟み込まれた組織が損傷して余計に痛みを誘発することにもなりかねないので注意してください。
2.肩関節を構成する3つの関節
肩関節は、①肩甲上腕関節、②肩甲胸郭関節、③肩鎖関節の複合関節であり、上腕骨の動きだけでなく、肩甲骨の動きも非常に重要となっています。
肩甲骨は胸郭の上に乗っかっている状態なので、その位置を保つためには周囲の筋肉がバランスよく緊張している必要があります。
先ほどの水平屈曲(対側肩動作)の動きを例に出してみると、肩甲骨は外転方向に動くため、菱形筋の柔軟性が低下していると動きを制限することにつながります。
肩甲骨の動きが少ないと代償的に上腕骨(肩甲上腕関節)が過剰に動くため、それが結果的にトランスレーション(骨頭変位)を引き起こすリスクとなります。
3.肩関節内インピンジメントの治療法
対側肩動作で肩前方に痛みを訴え、関節内インピンジメントが疑われるケースに対しては、肩関節後方組織のタイトを治療していくことが必要です。
制限に関与しやすい組織には、①棘下筋、②肩関節後方関節包があります。
棘下筋の拘縮を治療していくときに知っておいたほうがいい知識として、棘下筋は菱形筋と強く連結すること、表層に三角筋が覆っていることが挙げられます。
上の図は、アナトミー・トレインにおけるディープ・バックアーム・ライン(DBAL)になります。
アナトミー・トレインとは、筋膜の外層を通じて機能的な力伝達の共通の経路を説明しようとしたトム・マイヤーズ氏が提唱した理論になります。
DBALをみてみると、棘下筋は菱形筋と強く連結しており、菱形筋の硬さ(緊張増大)は棘下筋にも影響を与えることが視覚的にも理解できます。
そのため、棘下筋だけにアプローチするのではなく、菱形筋を中心としたライン上に存在する筋肉にもアプローチしていくことでより効果的な治療が行なえます。
また、棘下筋の表層は三角筋に覆われているため、両者が分離して働くことができるように三角筋後部の外縁から母指を入れ込むようにしてリリースしていきます。
棘下筋のさらに深層には後方関節包が存在しているため、後方関節包のタイトが存在している場合は関節モビライゼーションにて伸張していくことが必要です。
方法としては、患者に仰向けをとってもらい、治療者は肩関節90度に保持した状態で上腕骨頭を後方(床面)に押し込むようにして関節包を伸ばしていってください。