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「1.痛み治療におけるセルフエクササイズの役割」
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1.痛み治療におけるセルフエクササイズの役割

これまで、他の特集シリーズにて、痛み治療としての徒手療法の用い方(実際の技術ではなく、それをどのように用いていくかの考え方や思考プロセスなど)を中心に書いてきました。

その中で、理学療法士側のスタンスとしては、痛みをゼロにしようと意気込む事よりも、「どうすれば理学療法士の手を借りずに患者自身で痛みをコントロールできるか」に着目した視点でほとんどの記事が書かれています。

自己管理法としてのセルフエクササイズ(自己治療法)への移行についても、いくつか書いていますが、本特集シリーズ「ハンズオンからハンズオフ、自己管理へ」では、このセルフエクササイズや、自己治療法をメインテーマに書いていきます。

 

セルフエクササイズの分類

患者に提供するセルフエクササイズを考えた場合、私自身が患者に提供しているものに限定して考えると、以下の3種類になります。

  1. 一般的な運動
  2. その人にあった方法(自己治療法)
  3. テストの意味合いを持ったもの

まずは、ここの分類したセルフエクササイズの種類について、もう少し詳しく解説する事とし、本特集シリーズの2記事目以降では、行動変容やコンプライアンス・アドヒアランスなどと言った関連用語の解説を交えながら、セルフエクササイズを患者に提供する事について解説していきます。

では、まずは先ほどの3つ分類に関する説明からです。

 

1.一般的な運動方法

これは、テレビや本などでも紹介されているものだったり、患者自身がすでにやっているものだったりで、特別その人に合っている方法ではないけど、やって損があるわけではないもの、という意味で一般的な運動方法と私がかってにそう呼んでいます。

ウォーキングや、簡単なストレッチ、簡単な筋トレなどが、一般的な運動方法とさせて頂いたものです。

膝OAの文献や一般書などにも載っていたりする、理学療法士以外からは、とても人気が高い筋力トレ法、「下肢伸展挙上運動(SLR-ex)」も、この分類に入ります。

このような運動(筋トレやストレッチなど)が、「痛み」そのものに効果を発揮する事は、ほぼないと思います。

だいたいの場合において、整形外科のリハビリテーション科に治療を受けに来る前に、こういった運動に自分で取り組んでみて、

  • 効果がなかった。
  • 逆に悪化した。

といった事で、自分では、どうにもできないと思って治療に通う事を決断しているはずなので、病院に来る患者さんにおいては、ほぼ効果は無いはずです。

しかし、効果がそれ程ないはずの運動にも関わらず、患者の受け入れは非常に良く、運動習慣を身につける意味では用いやすいものだと言えます。

逆に言うと、少し言い方が悪いように聞こえるかもしれませんが、こういった効果のない運動を継続的にできる方は、自主訓練に移行していく事に難を示す事はあまりありません。

治療の初期のやりとりの中で、以前から取り組んでいる運動などがあるかを聴取し、こういった一般的な運動を続けてきたという方は、治療関係における予後としては良好な患者という事が言えると思います。

最終的に、その人にあった運動方法を提供する前段階で、セルフエクササイズに持っていきやすい患者かどうかをスクリーニングする意味では、この一般的な運動をセルフエクササイズとして処方して、それを続ける事ができるのかどうかを見てみる事もあります。

この一般的な運動方法が持っているべき特徴としては、まず第一に「痛みを悪化させないものである事」です。

つまり、運動そのものが、「危険ではない事」という事が最優先されます。

そして、治療効果そのものについては、ほとんど考慮に入れる必要はありません。

ラッキーで効果が出る人もいるかもしれませんが、基本的にはこういったもので良くならない人を対象にして治療に当たっていると思いますので、この一般的な運動には、痛みを良くするという事は求める必要はないと思っています。

生活に根ざしたもので、患者の信念や価値観から大きくずれないものであれば良いと考えられます。

こういった条件を有しているものが、一般的な運動方法と分類したものになります。

 

2.その人に合った運動方法(自己治療法)

次に、その人に合った運動方法(自己治療法)についての説明です。

この運動については、これまでの他特集シリーズの記事でも解説している事なのですが、理学療法士が用いた効果を実証できた治療(徒手療法)と、同等の効果を持っている運動方法のことです。

程度の差はあれ、症状を改善させる力を持っているものになります。

では、どういったものが、「その人に合っている」という事が言えるでしょうか?

例えば、椎間板ヘルニアや椎間板性疼痛だから、マッケンジーエクササイズがその人に合っている運動方法と言えるかを考えてみると、この場合は、どちらかと言うと先ほど挙げた「一般的な運動」に分類されます。

マッケンジーエクササイズを用いる理由が、病気や症状を考慮したうえで、何かしらの理論を引っ張り出してきたものであれば、全て一般的な運動方法に分類されます。

その人に合っているというのは、それをやる事で症状の改善に貢献した事を実証できたもののみです。

理論が一切なくても、解剖学的に上手く説明のつかない事でも、治療経過の中で、その効果を実証できたものが、その人に合った運動方法と呼べるものです。

よって、治療経過中にマッケンジーエクササイズを用いて、症状の改善を実証できた場合については、一般的な運動方法とはならず、「その人に合った運動方法」に分類することができます。

治療経過の初期を過ぎた頃から、リハ室での治療の補助的な意味合いで用いていく事ができ、最終的には、治療関係が終結する際の患者自身の今後の治療法(セルフエクササイズ)にもなるように指導を進めていきます。

この「その人に合った運動方法」というのは、徒手療法を用いた介入の中で、適刺激を探していく過程の延長線上にあります。この過程について、意味が分からない場合は、特集シリーズ「痛み治療のクリニカルリーズニング」をご確認下さい。

 

3.テストの意味合いを持ったもの

最後に「テストの意味合いを持ったもの」についてですが、これ自体は、一見運動のように見えるけど、やっている事は評価の過程で疼痛を確認していく際に用いた自動運動と同じものになります。

基本的には、上記の2種類のセルフエクササイズに加えて、このテストの意味合いを持ったものを、セルフエクササイズとして提供する事で、

「もしこの運動をやっていて、痛みが出てくるようなら、無理をしすぎていないか、腰に悪い事をしていないかを見つめなおしてみて下さい。」

と、痛み自体をあまり意識しすぎる事なく、自己管理のレベルで痛みをモニターする事ができます。

このテストの意味合いを持った運動で、安全面を考慮するための判断基準を作っておけます。

この方法で痛みが出るようであれば、

  • 無理をしすぎている可能性があるので、休養のバランスを見直してみて下さい。
  • その時が、もう一度病院を受診することを考慮する時です。

 

逆に、この方法を問題なく最後まで行えるなら、

  • あなたは自己管理が上手くできていると思って良いと思います。
  • 症状の再発を必要以上に恐れる必要はありません。

このようにアドバイスする事ができます。

 

「痛かったら、また病院に来て下さい。」という形での治療終結は、完璧に治療が上手くいった方には、何ら問題ないですが、軽度でも痛みが残存していたり、痛みに固執してしまっている状態にある患者では、無意味な発言となってしまいます。

また、患者自身を、痛みに囚われる方向に誘導してしまう可能性が出てきます。

そこで、「この運動を取り組んでみて、何か問題が出てくるようであれば病院に来て下さい。」と伝える方が健全な治療関係を保てると思います。

しかし、テストの意味合いを持っているものなので、やり方によっては、これ自体が症状を悪化させる可能性があるものとも解釈できるので、その用い方には注意が必要です。

 

まとめ

徒手療法を学び始めた頃は、徒手療法によって全て治せるようになりたいという強い思いがありました。

しかし、痛みの治療と関わっていくなかで、その危険性も学びましたし、何より「自分の身体は、その人自身で管理するという事が重要である」と考えるようになりました。

セルフエクササイズを上手く用いれるかが、徒手療法を用いた介入の結果を左右するものだと感じています。


特集 » ハンズオンからハンズオフ、自己管理へ

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