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「3.適刺激を見極めるための臨床的な視点」
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3.適刺激を見極めるための臨床的な視点

前回の記事では、適刺激を見つけるための考え方と、その取り組みを実践しやすい「対象者」について説明しました。

臨床の取り組みが浅いセラピストであればあるほど、適刺激を探しやすい患者から多くの経験を積んでいき、そこで得た経験を自身の治療技術の基盤にしていく事が大事だと思っています。

本記事では、「適刺激の見つけ方」という事で、適刺激であるか否かを判断する為の症状の「良い変化」の定義とそれを読み取っていく手段について説明していきます。

 

そもそも「良い変化」とは?

最も分かりやすい変化とは、コンパラブルサインの消失です。

例えば、前屈すると腰が痛いという患者が、特定の治療介入後に、前屈しても痛くなくなったとなれば、明らかな改善(良い変化)と解釈することができるはずです。

このような劇的な変化は、誰がみても判断し易いケースだと思いますので、ここからは、「改善(もしくは不変)と判断するのに困る領域での良い変化とは何か?」に焦点を当てて解説していきます。

イメージとしては、前屈動作で腰痛が出現する患者に対して、試験的な治療を行なってみたところ、セラピスト側は何となく良くなった気がするけど、患者からは「変わらない」という返答があるという状況です。

 

判断に困る領域で「良い変化」を判断する2つのポイント

痛みの治療を、患者の主観を変化させる事と言い換えた場合、患者が「変わらない」と説明する以上は、変わっていない(つまり、良い変化は起きていない)のかもしれませんが、実は今用いた治療法を継続する方が望ましいというサインを出している場合があります。

これを見逃して、別の治療方法に変更してしまうのは、気づきにくいですが、リーズニングエラーの1つとなります。

この判断に困る領域での「良い変化」を判断するポイントを2つ挙げています。

 

① あせらずに、1つずつ効果を見極める

仮に、初回の治療でコンパラブルサインに変化を起こせなかったとしても、今の手技を継続すべきとする徴候が出ているのか、まったく出ていないのかを判断できなければ、現在用いている手技を継続する根拠も、別の手技に変える根拠も損なわれてしまいます。

仮に別の手技に変えるとしても、現在用いている手技をしっかりと否定できた上での手技の変更であれば、考えられる仮説を1つ除外する事ができたと考える事ができます。

つまり、1つずつ効果を見極めていくことにより、少しずつ正解と思われるものに近づいていく事ができます。

少しでも症状を和らげてあげたいという気持ちから、多くの事をいっきに取り入れて、仮に良くなったとしても、何が良かったのかの判断はできません。これができなければ、セルフエクササイズに繋げる事もできません。やはり、一つ一つ検証していく作業が大切となります。

 

② 今、目の前に起きている現象と向き合う

もう1つ大切な事は、ガイドラインやエビデンスが確立されているか否かではなくて、「今、目の前にいる患者にとって良い方法か?」という視点です。

ガイドラインやエビデンスを用いる事は特定の治療法・手技を導入する根拠にはなっても、「目の前にいる患者にとって良い方法か」の根拠にはなりません。

あやしい手技を行おうが、一般的な治療法を選択しようが、結局は、自分自身で確かめなければなりません。

 

治療刺激(手技)の効果を見極めるとポイントとは?

前置きが長くなりましたが、ここから、介入後の「反応」に焦点をあてて解説していきます。

 

セラピストが加えた物理的刺激(現時点では適刺激かは不明なので、物理的刺激と表現しています)によって起きた変化の中で、以下の項目を臨床的に価値のある変化の一例と考えています。

  1. 症状の範囲の変化(縮小化や近位化が起きる)
  2. コンパラブルサインの確認方法の変化
  3. 治療中に再現された治療中の痛みの変化
  4. コンパラブルサインの悪化
  5. 設定したその他の従属変数の改善

これだけではありませんが、記事の都合上、特に重要だと思う部分をピックアップしました。

設定した従属変数の改善については、別記事で詳しく解説する事とし、上記の1~4までを1つずつ説明していきます。

 

1.症状の範囲の変化(縮小化や近位化が起きる)

コンパラブルサインが消失しなくとも、疼痛範囲の縮小化が起きれば、これは改善とみなす事ができます。

症状の範囲が狭くなるケースは、症状が消失した事と同様に理解しやすい事だと思います。

マッケンジーエクササイズなどで、よく言われている症状の近位化(腰部痛に下肢痛を伴っている患者の下腿後面部にあった症状が膝窩部に移動してきたら良い変化ととりあえず判断します。詳しくは、マッケンジーエクササイズに関する資料で確認してみて下さい。)もその一つです。

たとえ神経根症状によるものでなくても、症状が近位化する現象が起きた場合、何も起こらないよりも十分に価値があると判断する事が多いです。

 

2.コンパラブルサインの確認方法の変化

コンパラブルサインを確認する際に、治療前(プレテスト)に行った前屈動作を、治療後(ポストテスト)にやってもらう際に躊躇なく行えるというのも、良い反応の一つです。

患者の主観的な表現が変わらなかったとしても、患者自身で複数回確認してみせる(1回では判断できずに確認作業を繰り返している様子や、最初はゆっくりやった後、すぐにスピードアップしてもう一度確認する様子)などは良い変化である可能性があります。

治療前と同様の痛みが出てると話していても、動作パフォーマンスが上がっていれば、これも良い変化です。

この微妙な判断を行うためにも、セラピストは、プレテストの際に患者に「今ここで痛みを再現して見せて下さい。」と伝えた時の様子や動作の範囲・質などを覚えておく必要があります。

ほとんどの場合、患者は微妙な変化があるかをセラピストが知りたいという事を理解していない事が多く(たとえオリエンテーションをしっかり行って説明しているつもりでも)、完全に治ったか・治っていないかを知らせようとします。

痛みがあれば「変わらず、痛いですよ。」と返答する場合が多いので、この点を注意して確認する必要があります。

もし、痛みが全く変わっていなければ、たった一度の確認で「まだ痛いです」と返答してくれる場合がほとんどです。

複数回確認するという事は、患者本人の性格的な部分もありますが、何か違う感触を感じた(たとえ、患者本人が自覚していなくても)から、それを確認しているはずです。

その後に「やっぱり、痛いですね」と返ってきたとしても、「多少なりとも、何らかの変化があった事を感じてはいるが、痛いのは痛い」という可能性を考慮する事ができます。

このような反応がみられた場合は、用いている手技はそのままで、刺激頻度・強度を調整することによって、微細な変化を拡大できるかもしれません。

「刺激頻度・強度を調整する」は、同特集記事の1記事目で挙げた3つのポイントのうちの、2番目にあたる部分です。ここについては、別の記事で解説します。

 

3.治療中に再現された「治療中の痛み」の変化

症状としての痛みではなく、治療中に再現された痛みが、治療を通して軽減していく事がよくあります。

例えば、腰部の圧痛点に対して物理的刺激を加えていると、最初は「そこ痛いねー。」と反応していた患者が何も言わなくなったり、「さっきと同じ部位を押しているんだよね?」と確認したりする事があります。

これは、もしコンパラブルサインと関連する領域を治療できていれば、治療中に再現された痛みが再現されにくくなる事は良い反応と解釈でき、「症状の良い変化」を期待する事ができます。

ただし、治療中に再現できた痛みがコンパラブルサインや症状と関連しているかはこの時点では不明です。

ですので、治療中に痛みが再現された場合は、患者に「普段感じている痛みと似ていますか?」や、患者の使用する言葉を使って、確認する事ができます。

 

例えば、痛みの質を「奥でジリジリと疼くような感じ」と表現した場合は、

「この痛みは、奥でジリジリと疼くような感じと似ていますか?」というように確認をとるなどです。

 

このやり方は、悪い意味として「主観的すぎる」と思われるかもしれませんが、痛みの特徴についてはセラピストより患者本人の方がよく分かっている(そもそも痛みが主観である)ので、患者の主観も評価の対象にするべきと考えています。

 

このように、日常感じている痛みを再現できたという場合は、例えコンパラブルサインに変化がなくても治療中の痛みに変化が出るまで治療を継続する価値があります。

その後、治療中の痛みの改善はしたけど、症状に変化がないとなった場合は、これを1つの基準として、次の治療ターゲットを決めた際に「以前の私とのやり取りで、普段感じている痛みと似ていますか?と尋ねましたが、その時と比べて今回の痛みはどうですか?」と聞く事ができます。

そして、「今のところの方が、前よりも、痛みの原因を治療されている気がする。」と返答してくれる場合があります。

 

このやり取りを積み重ねる事で、少しずつ疼痛の原因組織に近づいていくことができます。

よって、治療中に再現された「治療中の痛み」の変化は、それが適刺激とは言えないものの、「良い反応」と捉える事ができます。

 

4.コンパラブルサインの悪化

コンパラブルサインの消失・改善はわかるけど、悪化はありえないだろうと思われるかもしれません。

しかし、重要な事はコンパラブルサインが変化したという事です。

 

何ら意味のない事をやった場合は、まったく変化が起きないものです。 しかし、セラピストが用いた物理的刺激によって症状やコンパラブルサインに変化を起こす事ができたのです。

 

例え悪くなったとしても、変化が起きたという事は、治療ターゲット自体は的を得ているが、問題は「刺激頻度が多かった」「刺激強度が強かった」という他の要因がからんでいる可能性が考えられるので、次回の治療の際に治療頻度とグレード(治療グレードについては後日、記事にします。)を下げて実施すれば良いという事になります。

ここでは、刺激して悪化し、刺激を弱めると悪化はしない(良くなるわけではない)という場合は、その組織を守るネガティブな治療(安静や保護、代償動作によって負荷を軽減するなど)が効果を発揮するという仮説が立つ事もあります。

コンパラブルサインに悪化がみられると、動揺してしまい、無難な治療法に逃げてしまう若手セラピストを多くみてきましたが、これも現象と向き合うという事の1つであり、この時点で治療失敗を連想する必要は一切ありません。

 

一度悪い反応(コンパラブルサインの悪化)を起こした場合に気をつける事

コンパラブルサインが悪化した際の対応として、前述したような、「もう一度同じような手技(治療方法)を強度や頻度を下げて行う」という判断をした場合には、十分に注意しなければいけない事があります。

もし、再チャレンジによって、再度悪化させるような事態が起きると、治療関係を良好な状態に維持できなくなる可能性があるので、しっかりとしたオリエンテーションを行う必要があります。

また、メカニカルペインの特徴である、その運動や姿勢をやめたら痛みは消えるという状態でなくなった場合は、病態が悪化していたり、すでに信頼関係が破綻し、全て介入が悪い方向に傾く状態になっている可能性もあります。

今一度、メカニカルペインであるか否かの見極めは行なっておくべきです。

 

まとめ

この記事で解説させて頂いた事は、「コンパラブルサインの消失」がみられなくても、良い変化の可能性があると私自身が判断する患者の反応についてです。

感覚的な要素を多分に含んでいますので、前記事で説明した、適刺激を見つけやすい臨床像を呈している否かは非常に重要になってきます。(初学者、若手セラピストの場合は特に重要です。)

これを確認できれば、とりあえず今用いている物理的刺激を適刺激と判断し、継続してみる根拠になると思っています。

適刺激を見つける作業で大切なことは、手技のそのものの技術的なことではなく、それを行なった際の変化を読み取る為の準備試行錯誤(トライ&エラー)だと考えています。




特集 » 痛み治療のクリニカルリーズニング

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