シリーズ1での適刺激を探していく過程を症例報告みたいにやってほしいとリクエストを頂きましたので、その実際のやりとり(ブログに記載するため、文言は多少変えていますが、意図する内容は同じです。)を記事にしました。
この記事の位置付けは、特集「痛み治療のクリニカルリーズニング」の付録となります。
読み進めながら、疑問に思う箇所があれば、これまでの記事に戻って読み直してみるなど、理解を深めるためにご活用下さい。
この記事の目次
試行錯誤法による適刺激を見つける過程
症例紹介です。
- 40代男性
- 腰痛治療目的で来院
- レッドフラッグ(ー)
- メカニカルペイン(+)
- 簡単な問診から「腰を反らす時の痛みがある」という情報が得られています。
コンパラブルサインを確認するところから解説
疼痛を再現させ、患者の言う「痛み」が何かを確認
腰を反らすと最終域で痛みを誘発することができました。
ここで、患者にもう一度、腰を反らすように後屈をして頂きます。
腰椎伸展運動で痛みが誘発できました。
そして再現性を確認し、またイリタビリティーやセンシティビティーが無い事を確認しました。
とりあえず、痛みを再現させながら評価すすめていく事に問題はなさそうです。
また、再現性が確認できているので、現時点で試行錯誤法による推論(「試行錯誤推論法によるクリニカルリーズニング」の再考を参照)を選択できそうです。
このまま問診を続けます。
「痛み」の特徴をさらに深掘り
ここまで腰を反らす必要があるのはどういった時でしょうか?
他にも、こういった痛みが出る条件というものはありますか?
今までの説明が、療法士が聞いている事と実際にズレがないかを確認します。
ここで、患者は腰部の中央で下位腰椎のあたりを指し示しています。
他の場所にも痛みや違和感が出ていたりしますか?
患者:座位に戻り、そこからすぐに立ち上がる動作をもう一度確認します。
患者が立位体前屈をします。セラピストは、患者が前屈位を保持したまま質問を加えます。
では、そこから、先ほどの立位姿勢に戻ってみて下さい。
この時に痛みが出ているかを確認してもらっていいですか?
患者:開始肢位の立位に戻ります。
後、どんな感じの痛みなのかを表現する事はできますか?
最初にコンパラブルサインとして確認したのは腰椎伸展運動の最終域での痛みでした。
話を聞いていくと、座位からの立ち上がる際の腰が伸展していく動きで日常生活と関連性が高い痛みが出ていました。
しかし、現時点で確認できている範囲では再現性はあまり高そうにはありません。
座位の持続時間が痛みの誘発に関わっていそうです。
そこで前屈からの復位で症状を確認したところ、そこでも痛みを再現する事ができました。前屈位からの復位に関しては時間的な要素は関わってなさそうです。
この患者のコンパラブルサインと言えそうなものは、
- 立位伸展運動
- 座位からの立ち上がり(時間的要素が関連している可能性あり)
- 立位体前屈位からの復位
の3つになります。そして、痛みの場所は患者自身が指し示した一点である事、イリタビリティーやセンシティビティーがないこと立位伸展運動と前屈位からの復位に関して再現性があることが確認できています。
痛みは「ズキっと刺すような」と今、治療対象とする痛みを名詞化する事までできました。座位からの立ち上がりに関しては、効果判定の道具としてはやや正確性に不安がありますが、日常生活上の疼痛動作と最も繋がりが強そうです。
その他の疼痛関連動作を確認する
ここからは、症状を誘発する事ができた腰の伸展運動と運動学的に類似していて、なおかつ、試験的な治療で用いる姿勢に近い状態の動作で痛みを誘発する事ができるかを確認していきます。
だいたいの場合、背臥位、側臥位、腹臥位を確認できていればいいと思います。
ここで全てを説明すると冗長になってしまうので、腹臥位での確認作業のみを解説していきますが、それぞれの流れ自体は他の肢位でも同じようにやっていると考えて下さい。
そして、腰に痛みが出るかを確認してもらってもいいでしょうか?
パピーポジションをとるように、腹臥位で腰部の伸展運動を行って頂きます。
確認できているコンパラブルサインと同等の痛みがベット上で誘発できるかを確認しています。
これは、その他の疼痛関連動作に当てはまります。
患者の使用する言葉を使う事によって今治療対象としている痛みとは無関係の身体感覚とを区別しています。
ここでは、先ほど確認した痛みと同じものをベッド上で再現できたと解釈しました。ベット上で再現できる事を確認していれば、後の試験的な治療の際に、ベットから起こさなくても確認をとる事ができそうです。
ここまででプレ・ポストテストに採用できそうな項目を列挙します。
プレ・ポストテストに採用できそうな評価項目
コンパラブルサイン
- 立位伸展運動
- 座位からの立ち上がり(時間的要素が関連している可能性あり)
- 立位体前屈位からの復位
疼痛関連動作
- パピーポジション
疼痛関連検査
- (非実施)
患者の主観
- 痛みの量や質の変化
セラピストの主観
- 動作観察(コンパラブルサインと疼痛関連動作)
3つから4つが準備できていれば、とりあえずその後の効果判定は可能なので、ここまでで疼痛を誘発させる事を終了します。
また、これまでのやりとりで、症状の説明をセラピストの質問にしっかりと答えることができているので、患者の主観的な要素も効果判定の道具(プレ・ポストテスト)に採用できそうです。
試験的な治療後の効果判定で変化を読み取る準備をする事ができました。
最初の試験的な治療は、オリエンテーションのところで解説(オリエンテーションの重要性)したように、一つずつ丁寧に話しながら進めていきます。
→ 続き(②)
特集 » 痛み治療のクリニカルリーズニング
- 1.痛み治療の進め方 -治療を停滞させない為に-
- 2.症状に良い反応を示す手技の見つけ方 -適刺激という考え方-
- 3.適刺激を見極めるための臨床的な視点
- 4.徒手療法を用いる前に行うオリエンテーションの重要性
- 5.疼痛治療におけるゴール設定の考え方・目標設定時の注意点
- 6.よく形成された目標(ウェルホームドゴール)を設定する為の医療面接
- 7.価値のない悪化について ~イリタビリティー、センシティビティー~
- 8.効果判定のための準備(疼痛を再現させる他の動作や検査)
- 9.治療刺激の調整 ~より最適化された治療刺激へ~
- 10.初回の治療終了時にやるべき事
- 【付録】ケースで学ぶ適刺激を見つける過程
- 【付録】ケースで学ぶ適刺激を見つける過程2