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「2.症状に良い反応を示す手技の見つけ方 -適刺激という考え方-」
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2.症状に良い反応を示す手技の見つけ方 -適刺激という考え方-

前回の記事では、「適刺激」という言葉を多用しましたが、この言葉を用いる事により、この特集シリーズで伝えようとしている事を説明しやすくなるためです。

医学用語や、徒手療法関連の専門用語というわけではありません。

前回の記事でも説明していますが、患者の症状に良い変化を与えることができる物理的な治療刺激を、シンプルに表現するために適刺激としています。

言葉を勝手に作るのは、聞く方を混乱させてしまう為よくない事は承知の上で、一々説明するよりもこの方が回りくどくなく伝えやすいと思い使用していますのでご容赦下さい。

今回の記事では、前回記事で解説を飛ばした「どうやって、その適刺激を探すのか?」(3つのポイントの最初の1つ)について解説していきます。

 

症状に変化を起こす「適刺激」の見つけ方

セラピストが用いる手技は、その変化のメカニズムを仮定したものが、生理的な変化であろうと、解剖学的・生体力学的な変化であろうと、はたまた感覚受容器を介した神経反射を利用した変化であろうと、結局のところは物理的な刺激を用いて変化を起こそうとしています。

変化を起こすために用いているのは物理的な刺激ですが、この物理的刺激によって起こった変化のメカニズムは、今のところ、最も辻褄の合うであろう仮説にすぎず、本当のところはよくわかっていないことがほとんどです。

ですが、目の前で起きている症状の変化そのものは真実です。

ここでは、セラピストが物理的刺激を用いて患者の変化を確認し、症状の良い変化があればこれを適刺激としています。

変化が起きた時、何故それが起きたか?(どういうメカニズムか?)はここでは一切ふれずに「適刺激」の見つけ方について説明します。

 

痛みの臨床分類「メカニカルペイン」と「非機械的疼痛」

セラピストが用いた物理的刺激に反応したか・していないか、を最も確認しやすいのが機械的疼痛(以下メカニカルペインとします)です。

疼痛の臨床的な分類に「メカニカルペイン」があります。これは、特定の運動や姿勢の変化などによって痛みが再現され、それをやめると消失するという特徴を持っています。

患者の訴える痛みが、メカニカルペインの特徴を有している痛みとそうでない痛みは、明確に分けて病態を解釈します。

 

メカニカルペインとは、特定の姿勢や運動で疼痛を再現できる痛みのことを指します。

これは、疼痛の臨床分類の一つです。

メカニカルペインではない代表的なものに炎症性疼痛や心因性疼痛などがありますが、ここで疼痛の臨床分類方法についての説明は行いませんので、それ以外の疼痛は「非機械的疼痛」とひとまとめにして解説を進めさせて頂きます。

臨床分類 特徴
メカニカルペイン 特定の姿勢や運動で疼痛を再現できる痛み。

例)腰を曲げると痛い。曲げるのをやめると痛くない。

非機械的疼痛 メカニカルペインの特徴を有さない痛み。

炎症性疼痛や心因性疼痛などが含まれる。

 

メカニカルペインが評価の対象

まず最初に、適刺激を探していく上で重要になってくるのが、患者の症状がメカニカルペインか非機械的疼痛かの判断です。

先ほども少し触れましたが、メカニカルペインの特徴としては、

「特定の姿勢・運動で疼痛を再現でき、それを止めれば痛みは起きない」

という特徴があるので、この条件に当てはまる症状の訴え方をする場合、この患者の痛みはメカニカルペインの可能性が高いと判断します。

さらに、

  1. その症状の誘発・軽減をセラピストに患者自身で見せることができる。
  2. 症状の出現からしばらくの期間がたっており、比較的症状が安定している。

といった条件を満たす症状は、最も適刺激を探しやすい患者像となります。

 

問診により機械的疼痛(メカニカルペイン)の可能性を判断

まずは、問診でしっかりとこの部分を確認し適刺激を探しやすい患者であるか否かを判断します。

ここが曖昧だと、その後の推論過程の確からしさが全て損なわれてしまいます。

メカニカルペインの特徴を有していると判断できれば、そこからさらに、上記の2条件が揃っているかを確認する作業に入ります。

ここまで確認する事ができてはじめて、評価の内容を適刺激を探す作業に移ることができます。

(メカニカルペインの中でも上記の特徴を有していない患者は、適刺激を見つける事がやや難しく、この段階で適刺激を探す作業に移れません。別の推論過程が必要になります。)

 

1.実際に、痛い状態を見せてもらう

「1.その症状の誘発・軽減をセラピストに患者自身で見せることができる。」の部分は機能的実証と呼ばれるもので、目の前で痛みの出現・増悪を患者自身が実際にみせる事ができるか、という事です。

よくある患者とのやり取りの一つとして、「起き上がる時に腰が痛いです」という訴えがあります。

そこでセラピストは、この患者の説明を真実であると鵜呑みにする事もできますが、

「では、その痛みが出るという起き上がり方を今やってみせて下さい。」と患者に促す事もできます。

 

患者はさっと起き上がり動作をやってみせながら、「あれ? 今は痛くないな。」となることがあります。

その際、セラピストはさらに患者が訴える痛みについて確認作業を続ける事ができます。

例えば、「どうやったら普段感じているような痛みをここでみせる事ができますか?」と追加の質問を行うなどです。

 

患者はいくつかのバリエーションの起き上がりを実際にやった上で、「うーん。今は痛くないんだよね。」と返答した場合、まだメカニカルペインの可能性は否定されていませんが、上記で挙げた1番目の条件を満たしていない為、このまま適刺激を探す作業に移行する事はできません。

なぜなら、実際に痛みが出ていた姿勢・運動を利用して、介入による変化を読み取るヒントにする事ができないからです。

仮に、ここの確認が不十分なまま、なんとなく腰をマッサージして、患者から「良い気がする。」という返答があっても、これは適刺激とは言えません。

この確認作業による、患者自身がセラピストにみせることができる疼痛の再現を「コンパラブルサイン(再現可能な徴候)」と呼びます。

先ほども少し触れましたが、コンパラブルサインが陰性の患者は、別の推論過程が必要になってきます。

 

2.症状が安定しているかを確認

そして、次は「2.症状の出現からしばらくの期間がたっており比較的症状が安定している。」についてです。

「症状が安定している・いない」を確認するためには、

  • 予後良好な疼痛症候群を除外
  • 症状のベースラインを把握

この2点がポイントとなります。

 

予後良好な疼痛症候群を除外

一般的に腰痛は、原因不明であるものも多く、ほとんどのケースでは、2週間~1カ月程度で自然に良くなる予後良好な疼痛症候群とされています。

この期間に治療刺激を加えて起きた変化は、自然治癒の可能性を否定できません。

ある介入直後に、瞬間的に症状を改善させることができたとしても、発症してから2週間前後の症状が消えたのなら、「治療を受けてから症状が無くなっていた。」という患者の説明を受けても、治療による影響だと判断する事はできません。

選んだ治療手技を否定しているのではなく、そもそもの自然治癒の可能性を否定できないため、「その治療によるものと言い切れる状況ではないよね。」という話です。

もともと予後良好な疼痛症候群であるなら、セラピストが用いた物理的刺激による症状の改善の因果関係(腰痛の原因も、良くなった原因も)を説明することができない(かなり難しい)というわけです。

よって、痛み治療に関わるセラピストは、よくある主訴の一般的な経過について理解しておく必要があります。

例えば、「捻挫」はどれくらいの期間で改善するのか、頭痛が発症した際の一般的な経過はどうなっているのかなどです。

 

ただし、この期間内に行なった対処方法(治療法)は、予後良好な疼痛症候群の自然治癒を邪魔する事のない、比較的な安全な対処法であるという事は、言えるかもしれません。

 

症状のベースラインを把握(共通理解)する。

発症早期の場合、どのような経過を辿るのかが不明瞭です。自然治癒にて改善する期間内の変化ということで、介入の効果についての判断は難しくなります。

しかし、発症から長い経過が経っていても症状の出現にムラのある患者の「良い変化」は、非常に読み取りづらいという特徴があります。

「昨日は痛かったが、今日は痛くない。」「一日の中でも、痛い時と痛くない時がある。」

などは「症状が不安定である」と判断でき、上記2の条件を満たしません。

 

要するに、症状のベースラインを把握できるかが重要という事です。

このまま何もしなければ、数分後も、きっと明日も、1週間後も、今の状態が続くであろうと予測をした上で、その予測とのズレ(良い変化)を読み取りたいのです。

 

ここまでを整理します。

上記の2つの条件を満たしていれば、

「症状が安定している(ベースラインを把握できていれば、一見不安定でもかまわない)中で起きた、実際に見せてもらって変化は、セラピストが用いた物理的刺激の影響だ。」

という「治療と症状の変化の因果関係」を確からしく説明することができます。

 

ここで確認する事ができた適刺激は、仮に一時的ではあったとしても、確実に症状に変化を起こすことができる「適刺激」と判断できます。

現在用いている手技のエビデンスがどうかを問わず、「その人に、治療で用いる物理的刺激とする事の確からしさ」を構築する事ができます。

この変化が、長期的に維持できない変化だとしても、前回記事「1.痛み治療の進め方 -治療を停滞させない為に-」で説明したようにセルフケアの指導に移す事もできるはずです。

 

まとめ

今回の記事では、方法論として「どうやって探すか?」については触れていませんが、上記の条件を満たしていない患者には適刺激を見つける事は容易ではないので、方法論の前提として「適刺激を探しやすい患者像」について解説しました。

臨床推論能力を高めるためには、まずは上記の条件を満たす患者に対して、適刺激を見つける作業を繰り返してください。

この過程から得た学びによって、適刺激を見つけにくい患者についても、これまでに培った経験から裏付けられる仮説をもとに治療をすすめていく事も出来るようになります。




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