私たち、痛みに関わる理学療法士・セラピストが行なっている評価といえば、患者を評価する事だと思われがちです。
しかし、「用いている治療方法・治療手技そのもの」を評価をすることは、患者を評価する事と同じように重要な事です。
治療法を評価する事は、やや見逃されがちですが、痛み治療の臨床では、特に重要な事になってくるので、この点について解説していきます。
この記事の目次
治療手技総論
理学療法士や臨床で痛み治療に関わるセラピストなら誰しも、手を使用した治療法を何かしら持っているはずです。
ここで解説していく事は、すでに特定の治療手技を持っているセラピストを対象としていますが、名称がついているような有名な手技に限らず、手で触れて治療しているのであれば、それを「手技」と解釈して下さい。
例えば、一般的なマッサージやストレッチからROM-ex、トリガーポイントを刺激する事、関節モビライゼーション、筋膜リリース、AKA博田法など特定のグループによる治療法も含めて、全ての手を使った治療です。
ファーストチョイスで用いるその治療法を選んだ理由が、
- ガイドラインで推奨されているからでも、
- 解剖学的根拠により選ばれたものでも、
- 講習会で学んできたものでも、
- オリジナルの治療法でも、
なんでも構いません。
ここからは、「手技を評価する」という事について、手当たり次第とりあえずやってみる事を推奨するような解説に入っていきます。
ここで重要な事は、それが効果的なものか、そうであるなら、(特に)どういった患者に効果的なのかを可能な限り明確にしていくという視点です。
「手技を評価する」とは?
他の特集シリーズに書いたこれまでの記事では、
- 今行っている手技を早々に諦めない事
- 2回目に行う手技を別の手技にしない事
などについて説明していますが、これらは、今回の「手技を評価する事」に通ずるものです。
簡潔に言うと、特定の症状を有する患者に対してファーストチョイスで用いる手技は、必ず同じ方法を用いた方が良いという事です。
患者の細い症状や所見に合わせるのではなく、また、評価をしっかり行うのでもなく(究極のところ、考察も何もいりません)、ある程度まとまった患者群に対して、すべて同じ手技を用います。
疼痛誘発に関する検査はしっかり行うべきですが、痛みの原因を探っていく評価は、現時点でこだわる必要はありません。
レッドフラッグや、理学療法士が注意しなければいけない臨床像(イリタビリティーやセンシティビティーの存在)であるか、あとは患者の受け入れ(患者が受けたい治療を自ら決めてしまっている場合)に問題が無いか、などを確認できていれば、例えば腰痛という症状に対して、まずは必ず同じ手技を用いて治療を行います。
改善する患者が現れてから考察がはじまる
すると、その取り組みの中から、より効果をより実感できる患者に出会う時がきます。そしてまた、同様の効果を実感できる別の患者がまた現れる時がきます。
気づくと、少数ではあるが、複数の患者で似たような効果を実感できる場合があります。
その効果を実感できる患者の症状には、必ず共通項があるはずです。
ここからが考察が必要になってくるところです。
この共通項が何なのかがわかれば、この手技を選択すべき患者が分かるはずです。
そして、この効果を実感できるとした程度を、今まで解説してきた「微妙な変化」ではなく、明らかな改善という事に限定しておけば、その法則性をみつけて生み出された「この手技は、○○といった患者に効く」と判断したものが、「結果が出るのであれば、目に見える効果があるはずだ」として、自身のリーズニングパターンの中に蓄積されます。
ここで作られたリーズニングパターンは、細かい検査から選択された仮説に対する手技ではなく、大雑把な症状もしくは、誘発された疼痛に対して選択している手技なので、今後この手技を選択するための細かい検査は、そもそも必要ありません。
特定の疼痛の出方さえ分かれば、治療手技を選択できるようになるため、その後の臨床は非常に効率的なものになります。
例)特定の条件を有する腰痛患者に同一の手技を導入
例えば、動くと腰が痛いと訴えた患者の全員に同じ手技を選択します。
そのうち、腰を反らすと痛いと訴えた患者に効果が出やすい事に気付いたとします。
そうすると、腰が痛いという患者で伸展時痛を有する患者に効果を出す事ができる手技が自身の経験として蓄積されます。
この時、徒手的な介入を行う事に対する考察は必要ですが、痛みが椎間板が由来かとか、椎間関節由来か、といった考察はいりません。
そういった事が好きなセラピストは、それを行っても構いませんが、そこで作り上げられた「原因のメカニズム」に対する仮説が正しいとする根拠は、どうやっても見つける事はできず、どれだけ症例を重ねても仮説の域を脱する事はありません。
原因や改善のメカニズムは仮説にすぎませんが、良くなったという現象は事実であり仮説ではありません。
その起きている現象さえ整理できていれば、ここでの目的は達成されます。
患者だけを評価するのが、評価ではない
学生時代から「評価が大事」と繰り返し言われてきたはずなので、その評価の重要性については、療法士の全員が理解している事だと思います。
しかし、多くの療法士が、患者だけを評価するものと思っているように感じます。
「評価 = 初期評価のようなもの、病態・障害像を考察するもの」
これだけではないという事を、ここまでの解説によってイメージしてもらえたでしょうか。
「この治療法(手技)は、どういった患者に効果を示すのか」という視点で手技を評価する事にも取り組んでみる事をおすすめします。
トライ&エラーの繰り返し
徒手的な治療介入をしても良い状態であるなら、自身が有効な手技かもしれないと思っているものを、とりあえず導入してみて、それで効果が無ければ、「シングルケース研究法」で解説したように、これをいわゆる一般的な治療と置き換え、次の「評価によって選択された個別の手技」との比較対象にする事もできます。
ただし、この評価手段は「調査」であって、「実験」ではありません。よって、シングルケース研究とはやや違う領域になるので、この点については、留意して下さい。
とりあえず全員に同じ手技を適用した後の行動
もし、ファーストチョイスで用いた手技を実施した後に、症状の改善がみられても、これだけでファーストチョイスの手技が治したとは言い切れません。
経過をふまえて考察する事と、そのほかの複数の患者でも似たような現象が起きる事を繰り返し確認していく事で、「この手技は本当に効果がありそうだ」と言う事ができるようになります。
最終的な「〇〇という条件を有する患者に効果的だ」というように対象者を明確にしていきます。
症状や疼痛誘発検査の結果に、共通頃となりそうなものが見つからない場合にセラピストがとる行動は、この過程を続けながら、より沢山の患者でみていくという事が求められますが、それでも共通頃が見つからないという場合や複雑な解釈になってしまうようであれば、それ自体に臨床的な意義がありません。
その理由としては、今後、その手技を選択する判断材料としたいものが見つからない、もしくは、複雑で判断しにくいので、結果的にこの手技を選択する判断基準も曖昧だったり、複雑になる為です。
これでは、臨床場面を想定した場合では、ほとんど役には立ちません。
複雑なものをどう単純なものにするかは、別の手段をとる事で対処する事ができますので、この点については、本特集シリーズ後半で記事にしたいと思います。
もし、自身で考察できる範疇を超えてしまう場合は、この手技の評価を進める事は保留にして、別の手技を評価する事に取り掛かった方が良い場合もあります。
改善しない場合は、ここから個別性のある治療を選択
今、治療している患者が、ファーストチョイスで用いた手技で治らなければ、この手技を一旦却下し、この結果を今後用いる手技との比較対象とする事ができます。
基準ができてしまえば、患者とのやりとりの中で「一回目の治療よりも良いとか悪いとか、そういった比較はできますか?」と聞く事ができるようになります。
この聞き方は、今後の治療をすすめていく上で重要となる「微妙な変化」を抽出しやすい質問です。単純に「良くなりましたか?」では返答に困る患者も、あの治療法より良いですか?という質問には答えてくれる場合が多いです。
もし、ここで微妙な変化が見つかれば、特集シリーズ「治療を停滞させない為に 」で解説したように臨床を展開していく事ができます。
最初に用いる手技に患者の個別性はあまり考慮する必要はなく、そして、それによって得られる「比較対象」というメリットも生まれるため、初回の治療では個別性を考慮しなくて良いと私自身は思っています。
(あくまでも私の考えであって、「正しい手順」という意味での解説ではありません。)
それで、ファーストチョイスで用いる手技が、ある程度、自身の中で整理できたら、今度は、この手技をファーストチョイスで用いる事をやめて、他の手技をこれからのファーストチョイスとして、その手技の評価をしていく事になります。
冒頭であげた、この記事をご覧になっている理学療法士や痛み治療に関わるセラピストが普段何気なく行っている手を使った治療が、この方法で評価されていく対象となるものです。
効果があると自負している手技も、この過程を通して評価されるべきです。もし、全員に効果を示す治療結果が出ないのであれば、手技そのものにこだわるのではなく、この手技がどういった人に効くのかについてこだわっていくのです。
この過程を踏む癖をつけていると、特定の名前が付いているような手技が凄いのかどうかといった疑問が愚問であると思うようになりますし、全てを治せるかのように表現するインストラクターの発言や講習会の広告に振り回されなくなるかもしれません。
それらの手技を自身で評価すれば良いだけだからです。
「手技の適応者の特徴」を見つけ出す事ができた後の行動
もうすでに生み出された「○○といった特徴を有する患者に効く」としたパターンリーズニング適応の条件と一致しない患者は、引き続き「今、評価しようとしている手技」を一度受けてから、個別性を考慮したり原因の仮説を考慮した治療に入っていきます。
ここで重要なのは、セラピスト自身の中で「こういった症状にはコレ」といったものが、できあがっている場合は、その対象者には、簡単に他の手技を用いない事です。
一つの手技の評価を終えて、「こういった患者に適応できる」と法則性を見つけた先に、さらに取り組んでいきたいのは、自身のリーズニングパターンには当てはまらない患者(法則が当てはまらない人)に対しては、「どういった治療手技が適応できるか」です。
ですので、先ほど挙げたような自身のリーズニングパターンが出来上がってしまえば、その適応となる患者は、まずその手技をファーストチョイスで受け、それで良くならない場合のみ、新たに準備した次の手技(次に評価していこうと思っている手技)を受ける事になります。
法則通りに行けば良くなるはずなのに、予測された改善を示さなかった場合は、この法則と思われていたものに修正の余地があるかもしれません。
ただ、患者の症状は色々な要素が複合的に絡み合っているものなので、効果を示す割合を適応者10人がいたとすれば7〜8人程度は改善(的中率70〜80%)させる事ができていれば、臨床的には十分として考えて良いと思っています。
条件が一致する「適応者」にも関わらず、その手技で良くならない場合、次の評価しようと思っている手技で対応して、それでもダメだった時にはじめて、個別性を考慮した推論を行いながら治療法を選択していく手順を推奨します。
これを徹底する事で、手技を選択する判断基準は精緻化されていきますし、本当に効く手技でなければ自身の中で淘汰されますので、結果的には「効果的な手技しか引き出しには残らない」という事になります。
つまり、「選んだ特定の治療手技で良くなる患者」に、いつまでたっても出会わなければ、この手技は自身の選択肢から排除します。
そして、新たな手技を、ファーストチョイスにして同様の事を繰り返していきます。
徒手療法の可能性を完全否定する事ができるのは、その過程を通して、自身の引き出しに何も残っていないセラピストのみです。
研究結果から出された徒手療法の否定的側面を自身の臨床で証明できなければ、それは机上の理論と同じ事になってしまいます。
また、同じように、徒手療法が偉大だとか、「何でも治してしまう魔術」のようにとらえているセラピストも、その過程を通して、全員を予言通り改善させなければなりません。
しかし、そのような両極端な話は、ありえないと思っています。
重要な事は、「対象となるのは、少数かもしれないが、明らかに症状を改善させる事ができる手技」が存在していて、それが「どういった人たちに効果的か」という事を、日々の臨床で帰納的に明確にしていく事です。
手技を評価する事で、効率良く経験を積む事ができる
腰痛に限らず、私たちが扱う症状のほとんどは「原因不明の予後良好な疼痛症候群」です。
必ずしも、原因を探していく評価が功を奏すとは限りません。
少し乱暴な言い方ですが、今まで効果を示してきた治療法を、その適応患者に選択する力がつけば、痛みの原因を探る評価の過程を踏まずに治療を行えます。
個別性を考慮した治療介入を行い改善が見られたとしても、その治療手技には改善との因果関係を証明できるものが少なすぎます。
これだと決めた治療を選択する前に患者の症状のベースラインを把握し、そのベースラインから予測された予後と治療後の症状とを比較する必要もあります。
ですので、
- 最初に用いる手技は特定の症状を有する全患者に同じ手技で介入してみて、それで良くならなければそれをベースラインと解釈する。
- 良くなった場合は、一症例では何とも言えないので、多くの患者に、さらに試した上で共通する特徴を抽出していく。
といった二段構えで、治療の選択を行っていくと、効率良く経験を積んでいけると思います。
この過程は、意図的にパターンリーズニングを構築しようと思っている場合に有効な方法です。
患者を評価する場合
- 原因を評価→仮説→治療
手技を評価する場合
- 治療→改善→特徴を抽出
まとめ
もしかすると、ここで解説した内容は、実習で習ってきた事とは少し異なる臨床の取り組み方になっているかもしれません。
評価の考え方の1つとして参考にして頂けると幸いです。
なお、この方法で用いた手技を評価する際に、「改善」とするものを「目に見える改善」という、ある程度高いハードルを設けておく事が大切です。
今までで説明してきた微妙な変化ではなく、患者もセラピストも目にみえて分かる改善です。
何故なら、「確実に効果を示す手技」を見つけ出したいのに、微妙な変化までも含めてしまうと、「目に見えにくい程度の効果しか出せないかもしれない手技」になってしまうからです。
そして、この「目に見える効果」とするものが、その特徴を有する患者の7〜8割で言える事としておく必要があります。この7〜8割という数字には大きな意味があります。
理由は、他の特集シリーズにて解説しております。