今回の記事では、前回記事で解説した4段階のグレード表記を用いて、グレードを変更しながら、その治療手技を評価する事について解説していきます。
前回記事の内容を理解できている事を前提に解説を行っていますが、それぞれのグレードについてイメージがつきにくい方については、「グレード1→4になるに従って強度が増し、グレード3と4は、可動域最終域や痛みが出る可動域まで動かしている」という大まかな理解で読み進めて下さい。
この記事の目次
制限域や疼痛域で、患者の反応をみながら治療強度を調整
このグレード表記は、主に関節モビライゼーション手技を使用するセラピストが使用していますが、もっと大きな枠組みでこのグレードを採用すると、直接法(疼痛域や制限域に向かうような刺激)による治療の強度を示すために使用する事ができます。
この治療強度の決定は、患者の状態や反応をみながら決めていきます。
痛みに敏感な状態の治療強度
以前の記事でも説明していますが、「理学療法士が治療介入する際に気をつけるべき疼痛の特徴」として、イリタビリティーやセンシティビティーの存在、セビリティーの高さなどが挙げられます。
これは、痛みに敏感な状態です。
この状況での疼痛域や抵抗域での治療刺激は、リスクを伴います。
よって、直接法(疼痛方向への治療)ならば、低いグレードであるグレード1やグレード2を用いるか、間接法(直接法の逆。次の記事で解説しています。)を選択するのが一般的です。
グレード1や2を単純に言うと、疼痛域や抵抗域には入っていかない範囲での治療刺激という事になります。
痛みを誘発しない強度でのマッサージや関節可動域訓練、モビライゼーションなどはグレード1か2と解釈できます。
これは疼痛を誘発する方向、もしくは制限がある方向へ向かって治療刺激を加えている場合(直接法)の、その程度が弱い事を表しています。
もし、疼痛方向ではない逆方向への治療をしている場合(例えばポジショナルリリースなど)は、疼痛域や抵抗域に向かっているわけではないので、その程度に関してグレード表記は通常はしません。
患者の反応を確認しながら強度を調整
イリタビリティーやセンシティビティーがない場合は、疼痛域や抵抗域での治療は許されますが、患者の受け入れ状態によっては、疼痛を誘発される事を良く思っていない場合などにも、低いグレードで介入する事になるかもしれません。
学派によっては痛みを誘発する治療を推奨せず「ノーペイン」という言葉が示すように疼痛域での治療自体が選択肢にないものもあります。これらは治療者側の考え方の問題であって、そうであるべき患者もいれば、そうでない患者もいるはずですので、私自身は「ノーペイン」に拘る必要はないと思っています。
患者の反応を確認しながら治療グレードを柔軟に変化させる事が必要だと思います。その反応というのが、患者の主観や、コンパラブルサイン、疼痛関連動作、疼痛関連運動などの、「今、目の前に実在している現象そのもの」です。
これらに良い変化がみられれば、今用いている手技の強度が適している強さだという事を示してくれます。
また、このグレードを用いる理由は、セラピスト自身が患者に与えている治療刺激を記録するために重要であって、こういった患者には、このグレードでなければならないというような決まりはないと思っています。
治療強度の調整例
2回目の治療に訪れた患者が、前回の治療後からより強い痛みが続いていたという場合を考えてみると、その時に行った治療がグレード3で疼痛域から無痛域を行き来するような関節可動域訓練を行っていたとすれば、それよりも狭い範囲で可動域訓練を用いるべきだと判断する事ができます。
例えば、GⅢ+で治療を行い、悪い反応を出してしまった場合の選択肢としては、
- 疼痛域まで入るが、その程度を最小にしようと思えば、GⅢ–
- 疼痛域まで入る事をやめる場合は、GⅡ
という事になります。
また、痛いのは治療直後だけで、「家に帰ってからは、逆に痛みが軽くなっていた」というフィードバックをもらえていれば、今回も同じようなグレードで治療を試みて、1回目の治療直後に起きた一時的な疼痛増悪が再び出現するかをみる事ができます。
もし、同じ強度を用いたのに、今回はその疼痛が増悪する反応がみられず改善のみを示した場合は、この患者の治療は進んでいると判断する事ができるかもしれません。
悪い反応も良い反応もなかったとなれば、さらに強度を上げてみようという判断ができます。
強度の調整を行ない、その手技を否定
ある程度、強度を上げても、なお改善を示す反応がみられなければ、ここまでやってはじめて、「今用いている手技は無意味である」という事が言えそうです。
これまでの記事でも触れた、「同じ手技をすぐに変更してはいけない」という理由の一つに、この治療強度の問題があります。
もし、手技そのものの選択と、その際の治療強度の選択を同時に一発で行わなければならないとなると、強度の問題で改善を示す事ができないだけだったものも、「手技の選択の誤りだった」という判断になってしまう可能性があります。
これはリーズニングエラーの1つです。
同一の手技を用いながら強度を変更していき、その強度の変化に症状の変化が相関しているかを見なければ、強度の選択はかなり曖昧なものになってしまいます。
強度の選択が曖昧であるなら、手技そのものの選択が当たっているのか間違っているのかの判断のしようがありません。
同一の治療手技で、グレードを変化させながらその手技を評価
次のケースも、治療強度の調整を行なっている一例です。
グレード2で、1分間の治療刺激
↓
悪くなっていないが、良くもなっていない。
↓
グレード3or4で、1分間の治療刺激
↓
良くなっている気がする。
↓
もう一度、グレード3or4で、2分間の治療刺激
↓
先ほどとあまり変わらない。
安全な強度から、効果が最大化する強度に調整
まずは、安全な治療強度で特定の手技を行いました。
悪化(価値のない反応)は、ないので、さらに治療強度を上げてみようと思い、疼痛域もしくは抵抗域に入るような強度で治療刺激を行っています。
すると、「もしかしたら良いかも」という反応がみられました。
もし、この「良いかも」という反応が、確かに良い反応であり、治療刺激によって生まれている変化であると言えるなら、もう一度、そして今度は量を増やして刺激を加える事で、もっと良い反応がみられるかもしれません。
しかし、上記の場合は、もう一度加えてみたものの、思っていたような変化には至りませんでした。
治療刺激に対する反応という事実を把握
この時の選択肢として、「さらに強い強度を選択する」という判断でも、「良い変化と思っていたが間違っていた」という判断でも、どちらでも構いませんが、ここで重要な事は、「良い反応かもしれない変化は出ていたが、現在の治療介入では量依存性に改善を示す反応は見られていない」という事実です。
ここで、この事実を把握できていれば、現在の治療強度のままで時間をかけても改善を示すはずのない治療に、限られた時間を割く事を止めるか、それでも続けようと思うのかの分岐点ができます。
もし、このまま続けるのであれば、その時点からこの手技に求める効果の判断基準を厳しくする事になりますが、この点については、他の記事で解説します。
これらを考慮せずに、ただ、「きっと良いであろう」と思っている治療手技とその治療強度を、なんとなく続ける事を回避する事ができます。
治療強度を意識しながら、患者の反応をしっかり見ていく事でこの刺激を続けるべきか、さらに強い刺激か、刺激を弱めるか、などといった用いたの手技の微調整を加える事ができます。
選んだ手技が的を得ているなら、この強度の微調整に何かしら相関する反応がみられるはずです。
患者像からグレードを選択するという一般理解はありますが、ここで解説したように、グレードの選択は、自分が今行っている手技の強度を微調整するために用いる事もできます。
まとめ
グレードで表現する事は、決して特殊な事ではなく、「今行っている事を明確にし、これからのセラピストの行動を決める際の判断材料にする」という事に過ぎないと思っています。
この微調整を注意深く行う事で、治療強度の問題で、今用いている手技が無意味なものであると勘違いしてしまう可能性を低減できますし、目先の改善だけを目標に事に治療してしまう事のリスクを犯す可能性も同時に低減させる事ができます。
その行動の微妙さを記録する事ができるという事が、4段階のグレードを私自身が採用している理由です。
治療刺激を考えた時に疼痛が誘発される可能性がある手技を選択する場合は、患者のリアクションを考慮に入れる事ができるため、慣れてしまえば4段階のグレードは非常に用いやすいと思います。