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「6.よく形成された目標(ウェルホームドゴール)を設定する為の医療面接」
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6.よく形成された目標(ウェルホームドゴール)を設定する為の医療面接

「ウェルホームドゴール」は、「よく形成された目標」と訳され、心理療法のなかの短期療法の1つであるソリューションフォーカストアプローチf(以下SFA)に出てくる言葉です。

クリニカルリーズニング関連の用語や、徒手療法の用語ではありませんが、これを痛みを対象にした治療(理学療法や徒手療法、リハビリテーション)のヒントにする事によって、ゴール設定の仕方を工夫する事ができます。

 

「よく形成された目標」を設定する為の医療面接

SFAで言うところのウェルホームドゴールの特徴としては、

  • 肯定的な表現であること
  • 無理な目標でないこと
  • 具体的であること
  • 目標を達成した時のことを実際に自分自身でイメージできること

などが挙げられます。

(詳しく知りたい方は、参考書籍にある「解決のための面接技法|ピーター ディヤング、インスー・キム バーグ」をご一読下さい。)

 

この記事では、そのウェルホームドゴールを私なりの解釈も加えた上で、「痛み治療の目標」に当てはめて説明させて頂きます。

心理臨床の中で行われている本来のSFAでの用い方とは異なりますので、ここからは、「ウェルホームドゴール」とはせずに、「よく形成された目標」という言葉を使用しています。

では、まずは、やってしまいがちな間違った目標設定を挙げてみます。

 

よくある「間違った目標設定」とは?

  1. 今より少しでも良くなるようにする。
  2. 症状をゼロにする。
  3. そもそも、目標について話し合わない。

これらは一見、普通にありがちな事だと思います。これらの目標の特徴は具体性がないことです。「少しでも」と言う、この言葉は、どこまでかという範囲を曖昧にしてしまいます。

また、ゼロにするというのは、これまでの記事でも何度もふれていますが、日常生活を送っている以上、何かしらの痛みは誰でも感じえます。

ゼロという言葉にこだわりすぎると、日常生活上の何らさしつかえない程度の症状までも、治療対象に含めてしまう可能性があり、ゴールの見えない果てしない目標になってしまっている場合があります。

患者は治療を受ける事によって、痛みについては非常に敏感に反応しがちです。ちょっとした違和感が今までは何ともなかったのに、治療を受けた経験によって、全てが治療対象になってしまう傾向があると思います。

(この点については、前回の記事で説明させて頂きました。)

 

上記のような目標は、結局のところ何に向かっているのかがわかりません。

また、目標設定を行わない場合は、無意識的に1か2の目標になってしまっている事が多いかと思います。

 

よく形成された目標の具体例

では、私の解釈のもと「よく形成された目標」とするものを以下に挙げてみます。

  • 「朝起きて、すぐに起き上がり、仕事の準備ができるようになる。今まで、何の問題もなくできていた事ができるようになる。」
  • 「痛み止めを飲みながらなんとか家事をしているが、痛み止めに頼らずに一日の家事を終える事ができるようになる。」

これらは個別事例ですので、それぞれの患者で内容は変わってきます。

しかし、共通する事は、目標としている事が明確で、「もう十分に良くなった」と判断できる状態が患者とセラピストで共有できる事です。

また、痛みがどうかではなく、良い状態とは何か、つまり痛みそのものが相手ではなく、患者の実生活に照らし合せた上で痛みが十分に改善したと思える状態が何かを目標に設定しているのです。

 

よく形成された目標を患者から引き出す為の医療面接

そこで、これを聞き出す為の質問ですが、私は以下のように患者に問いかけます。

「あなたが、もう病院へ来なくても大丈夫と思える状態を教えて下さい。」

この質問に対する返答が、先ほど挙げた各々の「よく形成された目標」の部分に繋がっていくのですが、この質問に最初は困惑するか、

「痛みがなくなる事」や、「少しでも良くなればいいかな」など、前述した間違った目標を言う場合がほとんどですので、そのまま以下のように続けます。

「痛み自体は、誰でも日常感じえる普通の事です。問題なのは痛みで何かが出来なくなる事や、やりにくくなる事、そして、そういった事態がいつかまた来るのではないかという不安にかられる事だと思うのですが、如何ですか?」

痛みのメカニズムの仮説について丁寧に話す事よりも、痛み自体は大した問題ではなく、あなた自身が病院(整形外科や治療院など)を頼らないといけなくなっているこの状態が問題だという事を丁寧に伝えます。

 

そして、改めて患者に聞きます。

「痛みは生活上のどういった事に強い影響を与えていますか?」

「今の生活状態から考えて、何ができるようになった時に、もう痛みのせいで制限されなくなっているなと思えますか?」

 

これらの質問から具体的な疼痛関連動作を聞く事ができれば、以下のように続けます。

「あなたがおっしゃった、○○という状態を目標に治療をすすめ、そして、もし、また痛くなったとしても、どういう風にすれば対処できるかという所までお伝えできればと考えているのですが、如何ですか?」

患者から同意が得られれば、このやりとりは一旦終了しますが、患者は治療の経過を通して冒頭に挙げた目標に戻りかけようとするので、目標がブレないようにこのやりとりを必要に応じて繰り返す必要はあるかもしれません。

 

目標は、セリフエフィカシーの向上とペインコーピングスキルの獲得

痛みを改善するために、痛みに固執しない目標を立てた上で検査・治療を進行させる事で、患者のセルフエフィカシーの向上とペインコーピングスキルの獲得を目指して治療をすすめていく事ができると思います。

ちなみに、患者の言う具体的な動作が、コンパラブルサインになり得る動作の1つです。

それを、セラピストの前で見せる事ができればコンパラブルサイン陽生となります。

コンパラブルサインが陽性の患者は、症状のベースラインをしっかりと患者と共有した上で以前の記事で説明したように適刺激を探していく検証作業に入ることができます。

同特集シリーズのここまで説明してきた事が繋がってくるはずです。

最初から、特別なやりとりをせずに「洗面する時など、前かがみの姿勢をとった時の腰の痛みをなくしたい」等というような具体的な目標を患者自身で言える場合は、「腰の事を気にせず洗面する事ができた時が治療に通う必要がなくなる時ですね。そして、その状態を維持するための方法まで練習できるように治療をすすめていきましょう。」と答える事ができると思います。

メカニカルペインではない場合、このやりとりではなかなか上手くいかないと思います。やりとりが上手くいくか否かが、メカニカルペインであるか否かの判断の1つにもなると思います。

例えば、「何ができないとかではなくて、痛みが常にあるんだ。できないという事は何もない(もしくは、何もできない)。痛みがある事自体に困っているんだ。」と話す患者です。

訴えを聞いただけでは、メカニカルペインの特徴を有していません。

この場合、本当にそうなのかを確認していく作業が必要になりますが、対応手段はもう少し複雑になってきますので、臨床経験が豊富ではない若手セラピストが、徹底的に現象と向き合いながら推論を深めていく対象患者ではありません。

 

まとめ

本来であれば、よく形成された目標設定を行える状態の患者をセラピスト側のコミュニケーションのせいで、こぼれ落とさないように気をつける必要があります。

明確な目標に向かう事ができる患者を、「痛みをゼロにする」という漠然とした解決しようのない目標にしてしまわないように注意するだけで、未然に治療の進行を停滞させにくくする事ができます。

「ゴール設定をどう組み立てていくか」という事もクリニカルリーズニングの重要な部分です。そして、それを一緒に組み立てていくのも臨床で求められる技術の1つだと思います。

徒手療法に限らず、問題を解決していく手助けをする立場になった場合にも共通する部分だと思います。




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