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「1.痛み治療の進め方 -治療を停滞させない為に-」
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1.痛み治療の進め方 -治療を停滞させない為に-

痛み症状を訴える患者の治療に携わるセラピストは、治療を進めていくうえで、「何を目的に、どのような行動をとるべきか」「今取り組むべき問題が解決すれば、次の課題は何か」などを常に考える必要があります。

それを忘れて、「サービスを提供しなければ、、、」という視点に偏ってしまうと、適切な治療関係は築けなくなってしまいます。

今回は、痛み症状を訴える患者の治療(リハビリテーション)をすすめていく上で、私が大切にしている事を説明していきたいと思います。

 

気付くと、同じ治療プログラムをなんとなく続けている現状

治療関係がスタートし、最初は上手くいくかもと思っていた患者に対して、気づくと一時的な効果しか出すことのできない治療プログラムをいつまでも続けてしまい、毎回同じ事の繰り返し。

いつの間にか治療の進行は停滞し、何の為に治療をしているのかが不明確になっていく事があります。

 

患者も治すためにリハビリに通っているのではなくなり、「何曜日と何曜日の何時が私のリハビリの日」というように、趣味や習い事に毎週行くような感覚になってる場合があります。

 

こういった状況に陥らない為には、患者との治療関係がスタートした時点から、段階毎に解決すべき課題をしっかり把握しておく必要があります。

私自身は、以下の3点を常に忘れないように心がけて治療にあたっています。

 

治療を進める上で意識すべき3つのポイント

  1. 適刺激は何か?
  2. 適刺激を入れる頻度は?
  3. 患者自身で適刺激を入れる(自己治療)方法は?

もちろん、これだけではありませんが、この3つのポイントは、痛み治療の初期段階において非常に重要だと思っています。

ここで出てくる「適刺激」という言葉ですが、患者の症状に変化(改善)を起こす事ができる物理的な刺激を便宜的に「適刺激」と呼んでいます。

例えば、大腿前面に痛みがある場合に、大腿四頭筋の他動的な伸長(ストレッチ)を行う事で症状が改善するなら、ここで行なった伸長(ストレッチ)という物理的な刺激が「適刺激」と言えます。

なお、あくまでも便宜上、適刺激という表現しているだけであり、一般的に使用される医学用語ではない事は十分にご理解下さい。

 

適刺激を見つけてからの行動について

まずは、適刺激を見つける事からとなりますが、この記事では、適刺激を見つけられたと仮定して話を進めていきます。先ほどの3つのポイントのうち、最初の1つ目をクリアしている状態です。

特定の症状がある人に、何らかの(徒手的な)介入を行い、患者から、「ちょっと良くなっているよ。」という反応が出たところからを想定しています。

例えば、大腿前面の痛みを訴える患者に対して、大腿四頭筋のストレッチを実施して、「痛みが軽くなっている気がする。」という状況です。

ここでは、疾患が何であるか(構造的な破綻の有無や病期)や、痛みの原因が何であるかは問わず、上記で挙げた状況に対してどのように取り組むかを考えていきます。

 

「痛みが軽くなっている気がする。」そこからの行動が重要

「痛みが軽くなっている気がする。」という言葉が返ってくると、つい安心してしまいがちですが、重要なのはここからです。

もちろん、このまま良くなっていってしまえば良いのですが、必ずしもこのまま良くなるわけではなく、「一時的には良くなるけど、、、」という事態が起こります。

適刺激が見つかっても単純に治癒には至らないという現実にぶつかった時に、次はどう行動するべきかをイメージできるが、治療の進行を停滞させないカギとなります。

 

「一時的に良くなる」という現象に向き合う事

治療直後の患者は、症状の良い変化に喜び、もう治るものだと思い込んで病院・治療院を後にします。

しかし、また来院した際に患者から「結局まだ痛いよ。痛みは全然良くなっていない。」という説明がありました。

この状況でやるべき事は、患者に前回同様の適刺激を与え、再び一時的な満足感に浸らす事ではないはずです。

 

ここで、まず治療者が確認しなければいけない事は「どの程度、治療効果が持続したか?」です。

 

「一時的だった」という内容によって、

  • もし、多少なりと効果の持続がみられる場合は、今行っている手技を繰り返して、二回目の治療以降もそのまま改善がみられるか判断する。
  • 持続が一切みられない場合には、さらに良質の適刺激を探すか、効果が消失する前に今用いてる治療刺激(現時点での適刺激)を繰り返す方法を探す。

というような判断を行う事ができます。

前回行った治療手技(適刺激と思っている手技)が本当に価値ある手技かを見極める為に、もう一度同じ事を行ってみる事もできます。しかし、結果が見えていて、再確認の必要性がなければ、もう一度同じ事をする価値はありません。

 

さらっと書きましたが、もっとも重要な事は、「一時的に良くなった」というシンプルな言葉で片付けずに、

  • 前回治療後からどのような経過を辿って今の状況になっているか。
  • 患者が言っている「一時的に」というのはどういう現象なのか。

これらについて、徹底的に確認する作業です。この確認作業は、主に患者とのコミュニケーションとなります。

ここを疎かにしていては、新しい手技を採用しても、結局、どこかで同じ壁にぶつかります。

 

2つの典型的な間違った対処法

詳しく話を聞く前に次の行動に移るのは、多くの場合、遠回りをする事になります。

特に陥りやすい判断ミスとしては以下のようなものが挙げられます。

① 効果を出すために治療時間を延長してしまう。


現象に向き合わずに、同じ事を繰り返してしまうという事の他にも、よくありがちな判断ミスとしては、

治療時間を増やす、治療頻度を上げる、さらなる手技を加えるといった行動です。

この行動は、後に患者も治療者も苦しめる事になりやすいので注意が必要です。

 

なぜなら、患者は自分の体を他人に治してもらおうととっている行動そのものが本来は異常であり、その行動を強化してしまうからです。

また、セラピストにとっては、他にも多くの患者を担当しており時間的にも労力的にも負担が増えます。

(ネガティブな要素はさらに挙げられますが割愛します。)

ですので、私はこの「増やす、上げる、加える」といった対処法をできるだけとりたくありません。

 

② 他の治療方法を検討するタイミングが早すぎる

また、新たな他の適刺激を探したり、追加する(つまり、別の治療プログラムに変更する)のは、現在用いている手技が患者にとっての相対的には良い手技かもしれないという事を考慮すると、この段階での諦めは時期早々(代表的なリーズニングエラーの1つとされています。)となります。

仮に、より良い反応が出たとしても、何が良いのはわかりません。もちろん悪くなった時は最悪で、何が悪かったのかの判断ができなくなります。

つまり、「この治療刺激は価値がない」と判断できるまでは、現在の手技にこだわる事は非常に重要だと思います。

 

一時的に良くなるケースの1つの選択肢

私自身が今回の設定場面において、次の視点として大切だと思う事は、治療者が行った適刺激と同等の事を患者自身ができるか?です。

治療手技の再確認さえすれば、同じ治療を施す必要はほとんどありません。

仮に良くなったとしても、来週には同じような痛みがあるといって同じような場面に出くわす事が、容易に想像できるからです。

 

適刺激が見つかった後は、同等の効果を出せる自己治療法を一緒に見つけていく事が次のステップとなり、その自己治療法を症状が復活する前の適切なタイミングで患者自身で行って頂く事ができます。

この作業は、治療時間を増やす行為ではないし、新しい治療法探しでもありません。初回での良好な反応をヒントに、その良好な反応を最大化させようとする取り組みです。

 

余談ではありますが、普段用いている手技が特殊なセラピストは、この場面においてかなり不利です。セラピスト同士でも真似のできない事を患者に求める事は困難だからです。

特殊な手技を学ぶ事も重要かもしれませんが、実用性の方を重視するなら、手技そのものは簡便短時間誰でもできる一見大した事ないような手技こそ強力な武器になります。

患者自身にしっかりと自分の体に対する責任をもって頂き、その補助をセラピストが担っているだけということを徹底的に意識して対応する事ができれば、治療関係はうまくいく事が多いと実感しています。

逆に、「サービスを提供しなければ、、、」という視点に偏ってしまうと、適切な治療関係は築けません。

 

まとめ

クリニカルリーズニング(臨床推論)とは、疼痛の原因組織を探していく事や、治療手技を選択する為の単純なフーローチャートに従うものではないはずです。

今までの方法や考え方では上手くいかない時に「どう行動すべきか」を目の前の一つ一つの現象を考慮しながら、確からしいと思える方法に適宜修正しながら取り組む「姿勢」のようなものだと考えています。

ここでは、痛み治療や徒手療法(マニュアルセラピー)の現場を想定して説明していますが、この「姿勢」は、あらゆる臨床場面での問題解決に関わるものだと思います。




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