治療が進行してくると、療法士側からセルフエクササイズ方法に関する情報を提供して、それを実践してもらう場合が訪れます。
このセルフエクササイズの導入のタイミングで、しっかりとセルフエクササイズを実践できているかの確認をどのように行っているでしょうか?
今回の記事では、指導したセルフエクササイズがしっかり行えているかを確認する事の重要性と、その方法について解説していきます。
この記事の目次
指導したセルフエクササイズを実際に行えているかの確認方法
患者の実生活については把握できていない事がほとんどなので、多くのケースでは、患者からの報告のみを頼りにするしかないと思います。
例えば、
「どうですか?自主訓練はしっかり行えていますか?」
すると患者の返答が、
「いいえ、全然やっていません。」
この場合は、絶対にやっている事はないはずですので、この返答はとても分かりやすいです。
この場面では、取り組めていない事について注意するか、新たな自主訓練を考案してみるかは、セラピストそれぞれだと思いますが、上記のような偽りのない返答であれば、実際に「自主訓練が行われていない」という事を正確に把握する事が出来ます。
そして、この事実を正確に把握する事で、次にどういった行動をとるかを判断する事が出来ます。
しかし、
「やったり、やらなかったりかな?」
「たまにやるくらいです。」
「やらない時もあります。」
こういった返答の時は少し判断が難しくなります。
これらの返答の仕方は、やらない時がほとんどなのか、やる時がほとんどなのか、また、その割合や、実施の程度が把握しにくい返答だからです。
セラピスト側も、さらに深く聞きにくくなってしまう為、自主訓練の実態があやふやなまま、この事についてのコミュニケーションがおろそかになってしまう場合があります。
しかし、これをしっかり把握出来ていなければ、療法士側が次に何を考えて動けばいいのかが分からなくなってしまいます。
しっかり行えていないのであれば、何故行えないのかについて話し合う事ができますが、これが分からなければ、何故行えないのかについて話し合う事は不可能です。
もし、実施できない理由が、「患者自身の危機感の欠如」が問題であれば、このまま自主訓練を行わない事で起こりうる不利益について話合う事が出来ます。
セラピストが適切な自主訓練を処方できていないという事が分かれば、どういった自主訓練なら取り組めそうかについて考える事が出来ます。
しかし、自主訓練ができているのか、できていないのかが曖昧なままだと、次にどういった行動をとるべきかも分からないわけです。
ここで、曖昧なままやり過ごすと、治療終結を迎える頃に、新たに自主訓練を指導する為だけのセッションを設けなければいけなくなります。
ペインコーピングスキルを高めずに治療を終結するリスク
治療終了までの期間の間に、セルフエクササイズに取り組んでこれたという、患者自身の自負がないので、治療を終結し、これから自身の症状をセルフコントロールしていく事に不安を感じてしまいます。
痛みへの自己対処能力であるペインコーピングスキルがない状態での治療終結は、「治療を終えた」ではなく、「終わらされた」というネガティブな心的状況に置かれます。
患者によっては、既に自己管理で問題ないレベルに達しているにも関わらず他の治療院を探したり、予防と題して高額なサプリに手を出してしまうかもしれません。
そうならない為にも、治療経過の途中の段階から、セルフエクササイズにしっかり取り組めているかを担当療法士は把握できていなければいけません。
セルフエクササイズ実践度の把握方法
では、どのようにセルフエクササイズの実践度を把握するのでしょうか?
一つはしっかり聞く事です。
「当たり前の事を…」と思われる方もいるかもしれませんが、そこができないセラピストは多くいるように感じます。
直接聞く
患者が「やったり、やらなかったりかな…」と返答した時に、どれくらい具体的に聞けるかが重要です。
「では、1番近い日で、自主訓練を行ったのは、いつですか?」
「昨日ですか?それとも一週間前ですか?」
「先週の一週間のうち、それに取り組めているのは、何日でしたか?」
やったり、やらなかったり、という言葉はかなり曖昧で、1ヶ月のうちの1日でもやれば、残りの約29日を実践していなくても、「やったり、やらなかったり」という表現をされる方もいます。
この表現の仕方をする患者と、数日に1回休む患者を明確に区別するためには、しっかり「どの程度か」を確認する必要があります。
実践してもらう
もう一つの方法は、実際に見せてもらうという事です。
「私が、あなたに指導した自主訓練を、実際に今やって見せてもらってもいいですか?」
「私は傍で見ているだけですので、家で実際に行っているようにやって見せて下さい。そして、全てをやり終えたら、終わった事を知らせて下さい。では、宜しくお願いします。」
このように言って、その場から一歩だけ下がります。
実際に行えている患者は、このように言われると実際にやってみせる事ができます。
しかし、実践していない患者は、躊躇し、取り組む前から、理学療法士にやり方の確認をしようとします。
実践できていない事が分かった時の対処
上記の実際に見せてもらうという確認方法で、患者が指導したセルフエクササイズを実践できなかった場合は、その場で自主訓練の再指導を行わない事です。
ここで、中途半端な再指導を行ってしまうと、ここでやらなくてはいけない課題の取り組みが中途半端になってしまいます。
もし、実践できていなかった場合に、理学療法士と患者が取り組むべき事というのは、まず、セルフエクササイズをやってこなかったという事を患者自身に自覚させる事です。
そして、どうしてセルフエクササイズを実践できなかったかについて話合う事です。
ここに、今後は自主的に実践してもらうためのキーワードが隠されています。
ここの評価を中途半端にすると、今この場で再指導を行っても、また同じ事を繰り返す事が目に見えています。
ですので、安易な自主訓練の再指導は、本当に取り組むべき問題をうやむやにしてしまいます。
自主訓練を実践しなかった事を注意しなければいけないと言っているのではなく、取り組めていない現実から目を反らさず、そしてどうすれば実践できるかを考える良い機会と捉えるのです。
すると、表には出てこなかった新たな問題が出るかもしれません。
まとめ
前回の記事で説明した、セルフエクササイズの実用性についての問題が潜んでいるかもしれませんし、患者自身がセルフエクササイズの重要性を把握していないのかもしれません。
こういった問題が隠れている場合は、その場でセルフエクササイズを実践できていない事を、理学療法士側からの一方的な指導で解決する事は難しく、時間を置いてから再び問題として現れてきます。
よって、セルフエクササイズを指導した理学療法士は、その実践度をしっかり把握しつつ、どうすれば生活に落とし込む事ができるようになるかを意識して患者と関わる必要があると思います。