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「2.理学療法士が提供したセルフエクササイズを継続できない患者の対応」
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2.理学療法士が提供したセルフエクササイズを継続できない患者の対応

リハビリテーションにおける治療の過程で、自主訓練を指導する場面は多々あると思います。これは、「徒手療法を用いた痛みの治療」に限らず、リハビリテーション全般で言える事です。

本記事では、その指導したセルフエクササイズを実施できない、または継続できない、という患者の対応について解説していきます。

 

痛み治療の現場は、セルフエクササイズを導入しやすい

よく、「患者を自主訓練に取り組ませる方法」といったコンプライアンスを高める方法についての話だったり、実際に行動へ移せない患者たちへの行動変容を促すアプローチだったりが、セミナーなどでテーマに上がったりします。

リハビリテーション全般で考えた場合と、徒手療法を用いた痛み治療での、自主訓練を指導する場合の大きな違いとして、それをする事での患者側の「利益の分かりやすさ」が挙げられると思います。

継続を阻害する因子はないはず…

例えば、麻痺側上肢の巧緻性を上げるために取り組む自主訓練は、多大な努力を要する割に目に見えた効果は出にくく、最初は意気込んで頑張っていても、次第に意欲の低下が現れ、結局は自主訓練を続けられないという経過を辿ってしまうことが多々あると思います。

しかし、痛み治療のリハビリテーション場面を考えてみると、痛みそのものが今この場で変化をする事を確認しながらできれば、基本的には継続を阻害する因子はありません。

先ほどの麻痺側上肢の巧緻性を上げるためのリハビリテーションの話しで考えてみると、最初は意欲的でも、効果を実感できずに継続できないという事が容易に考えられます。

しかし、これを継続しなければ、結局は効果が出るはずがありません。多くの努力を要しておきながら、継続してみて初めて、効果があるかを確認する事が出来ます。

つまり、死ぬほど頑張っても、効果が出ない可能性がありながら、それでも希望を捨てず必死に取り組む必要性があります。

これを継続できる方は、決して多くはないはずです。そして、問題はこの次にあります。

「まずは取り組んでみて、効果が出なければ、次は別の方法で取り組んでみましょう。」

これは、相当に辛いものになります。一生懸命頑張ってみたけど、効果がなかった。

そして、次に取り組んでみる新たな事も、まずは一生懸命取り組んでみて、でも効果があるかはやってみないとわからない。

これではいずれにせよ、続けられない事は目に見えています。

しかし、痛み治療としてのリハビリテーションは、このような状況とは少し違います。

今、痛い状況から脱するために、「試しに取り組んでみる」という事にストレスを感じる患者はほとんどいません。

そして、効果検証は比較的短時間でできる(効果があるものについては、何かしらの即時変化があるはずです)ので、「もし、これで効果が無ければ、次の方法に変えてみましょう。」と理学療法士が提案しても、それに難を示す事はほとんどありません。

ですので、リハビリテーション全般の中では、比較的、自主訓練(自己治療法)を組み込みやすい領域という事が言えます。

 

セルフエクササイズを継続できない患者がいるのはなぜ?

しかし、提供した自主訓練としての自己治療法(セルフエクササイズ)を継続できない患者がいるのも事実です。

この場合に考えられる事は、

  1. 導入したセルフエクササイズがまったく効果が出ない
  2. セルフエクササイズで効果がある事を実感させきれていない
  3. そもそもセルフエクササイズには関心がない

といった事が考えられると思います。

これらについて順番に説明していきたいと思います。

 

1.導入したセルフエクササイズがまったく効果が出ない

これは、自己治療法という考え方からはかけ離れていますので、続かないのが当たり前の結果であると言えます。

患者に適切なセルフエクササイズ自体を探しきれていない事が問題です。

この場合、リハビリ室での治療場面を考えてみた時に、徒手的な介入や理学療法士の指導のもと行われている運動療法を実施している時点で、効果的な介入が行えていないなら、その人にあった物理刺激を見つけきれていない状態と考えられますので、まずは適刺激を探していくという事が先決になります。

腰部痛がある患者に対して、何かしらの研究を持ち出し、例えば、安定化運動と呼ばれるような自主訓練を指導した所で、それが効果を実証したものでなければ、それはその人にあった方法とはなりえません。

その運動が本当にその人に合っているかは、プレポストテストによる効果判定でしか分かりません。

冒頭でも挙げた、痛み治療現場のセルフエクササイズの特徴として、「患者側の利益の分かりやすさ」と表現しましたが、効果が一切現れないセルフエクササイズに、患者は利益を感じていないので、継続できるはずがありません。

この状態で、行動変容を起こそうとしたり、行動療法的なアプローチを行うことはあってはならなことです。

 

2.セルフエクササイズで効果がある事を実感させきれていない

この点については、効果を出す事ができる自己治療法というのを、理学療法士側からすると見つけきれているが、患者自身が、そのセルフエクササイズ法の重要性を認識していない状態と言え変えることができます。

良くなっている事については、「これまでの良くなってきた経過」について話し合う事で、ある程度理解してくれると思います。

しかし、指導したセルフエクササイズ法が重要である事の認識に欠ける場合は、どれだけ論理的に説明しても、その重要性を認識させる事は難しいです。

セルフエクササイズの重要性を認識しにくい原因として代表的なものとしては、

患者自身が色々な事に取り組んだり、リハビリ室での多くの治療的介入(徒手療法の継続や、電気治療、ホットパックなどの物理療法など)を行う事によって、自主訓練の重要性がボヤけてしまう場合が挙げられます。

例えば、運動療法が症状に良い変化を与えたにも関わらず、患者が、「私は電気治療をしてから、良くなった。」などと説明する場合です。

このような場合は、患者と話し合った上で、絶対に必要のある治療的介入以外を排除します。

「セルフエクササイズの効果を検証するために、他の治療は一旦ストップしてみようかと考えています。もし、セルフエクササイズが効果的であれば、電気治療などをやめても良い状態を維持できるはずです。」

「効果を検証するために…」という理由で、他の治療的介入を中止し、

「効果を検証するために…」という理由で、セルフエクササイズを確実に実施してもういます

「あなたにとって絶対にやらないといけない事ですよ」と押し付けるのではなく、「私の検証作業の一環として、その効果のほどを検証させて下さい。」と協力を仰ぎます。

基本的に同意しない患者はいないはずです。実際、治療を受けに来ている、私が担当する患者でこの提案を拒否した方はいません。(もちろん、通常のコミュニケーションがとれる方に限定しています。)

担当理学療法士に協力するという形さえ作れば、その自己治療法に取り組む事ができます。

患者は、そのセルフエクササイズを自己管理としてではなく、担当理学療法士に協力するという形をとることで、セルフエクササイズの重要性に気づいていない患者も、取り組みはじめます。

そして、他の治療的介入を中止しているので、そのセルフエクササイズが、効果がある治療法であると言えるならば、患者は、その効果をセルフエクササイズによるものと理解してくれはずです。

もしここで、例えば電気治療を継続しているとなると、患者によっては、「セルフエクササイズではなく、電気治療によって改善している」だとか、沢山の治療的行為の総合結果だと思ってしまい、セルフエクササイズの重要性を認識するきっかけが分散してしまいます。

ですので、セルフエクササイズの重要性を認識できていない患者の場合は、必要以上の治療介入を行わないように気をつける事と、患者自身のためではなく担当理学療法士に協力するために自主訓練を継続してもらうのです。

効果を実感でき、セルフエクササイズの重要性を認識させる事ができれば、あとは、何も言わなくても自主訓練を継続していく場合がほとんどです。

仮に継続できなくなったのであれば、治療の必要性そのものがなくなったという事ができ、治療終結へ向かう事となるはずです。

 

3.セルフエクササイズに関心がない場合

セルフエクササイズそのものに関心がない場合は、治療で加えようとしている物理刺激をセルフエクササイズで用いようとしてる運動方法で代用する必要があります。

例えば、仙骨のニューテーションを加える手技で、治療効果が出ており、それをしばらく継続しようと思った時は、リハビリ室での治療中は、理学療法士が患者に触れる事なく、仙骨のニューテーションを起こせる自動運動を用いて治療をします。

理学療法士が行うのは口頭指示のみです。

そして、患者には、「もし自宅に居る時に、腰痛があると感じたら、1人でこの運動をやってもいいですよ。」と伝えます。

次回のリハビリ時に、「この一週間は腰痛が少し強かったな」と患者からの報告があった時にも、「治療中に用いたあの方法については、1人でやってもいいですよ。」と伝えます。

セルフエクササイズに関心のない方に、理学療法士側から押し付けるように指導をしても、大抵の場合は、失敗に終わります。

ここでの関わり合い方は、「必要な場面に出くわしたら、それをやっても良いですよ。」とだけ伝えるのです。

患者は症状が残っているから、理学療法士にその症状を訴えます。そしたら、理学療法士はその治療法を分かっているので、その症状に合う治療法を「やっても良い」という返答を繰り返すだけです。

セルフエクササイズでできる事を、理学療法士の手でやってしまうとゴールから遠ざかっていってしまうので、対応の仕方には注意が必要となります。

 

まとめ

2と3については、あくまでも、適刺激が見つかっていて、それと同等のセルフエクササイズが準備できている状態での対応方法です。

効果そのものがない、「一般的な運動方法」という分類(前回の記事を参照)に当てはまる自主訓練法については、この対処法を選択できないと思います。

まずは、その人の症状に変化を起こすことができる適刺激を見つける事です。


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