セルフエクササイズを処方する際に、それを実際に行う事ができるかは非常に重要になってきます。
痛み治療場面で処方されるセルフエクササイズは、その痛みが実際に「セルフエクササイズによってコントロール可能」という事を患者自身に実感として持たせる事ができれば、後は理学療法士側から細かいアドバイスをしなくても、患者自身でしっかり行っていく事がほとんであると思います。
しかし、中には上手くいかない患者もいます。コンプライアンスが低いとされている患者です。
今回の記事では、セルフエクササイズを処方する際にコンプライアンスを低減させない方法について解説していきます。
この記事の目次
コンプライアンスが低いのは、患者側の問題か?
本当にコンプライアンスが低いと言えるのかを考える必要があります。
セラピストのセルフエクササイズ指導方法が、コンプライアンスを低く見させてしまっている場合もあり、その点について見つめ直す必要があるかもしれません。
本来のコンプライアンスの高さよりも、低くなってしまっている場合に考えられる事の一つとして、患者の生活に根ざした自主訓練を提供できていない可能性が挙げられます。
例えば、痛みが出てくるのが、「長時間歩いている時」という条件を有しているにも関わらず、痛くなった時の対象法として指導したセルフエクササイズが、ベッド上でしか行う事ができない場合などです。
その場で必要と思った時に、その状況では用いる事ができない対処法は、どんなに効果があっても用いる事はできません。
一旦、家に帰って就寝前に行う事になり、場合によっては、セルフエクササイズを行う事を忘れてしまう事も考えられます。
すでに、違う状況になっていても、後でそれをできる患者がコンプライアンスが高いのであって、確実に行えないとしても、それはコンプライアンスが低いとは言い切れません。
実用的なセルフエクササイズであるか?
実際に必要となる場面で用いる事のできないセルフエクササイズは、実用性は高くないと考えた方が良いと思っています。
日々のケアという意味では、必要な事かもしれませんが、実際に必要となる場面で行えるセルフエクササイズも合わせて提供する必要があります。
その為には、患者の痛みの出る条件をしっかり把握しておく事が重要です。
また、その時にどういった行動をとる事が可能なのかも確認しておく必要があるでしょう。
特に、仕事中や、外出中に痛みが出てくるというのがパターンとして多い場合は、その時に用いれるセルフエクササイズの選択肢は狭められます。
同じ立ち仕事でも、必要に応じて座る事ができたり、壁にもたれる事ができる状況にある患者と、そうでない患者では、提供できるセルフエクササイズのバリエーションに違いがあります。
人前で行う事を苦にしない患者もいれば、人前ではそういったセルフエクササイズはできないと考えている患者もいます。
もちろん場合によっては、その場では効果的に行う事ができない状況もあり、そういった時は妥協案を考える必要も出てきます。
セルフエクササイズを導入する際に考慮すべきこと
セルフエクササイズを処方する際に考慮に入れておく必要があるのは、
- どういった状況でセルフエクササイズが必要となるか(実際に痛みが出てくる場面・状況は何か?)
- どういった体勢・姿勢で行う事が許されるか
- それには、どの程度の時間をかける事が許されるか
これらの事を考慮していなければ、家に帰ってから、もしくは就寝前にしかできないセルフエクササイズしか提供できていない可能性があります。
また、上記の事と重なる部分ですが、患者自身の価値や信念として、セルフエクササイズがどうあるべきかが既に決まっている場合があり、その点についても考慮に入れなければいけません。
患者の価値や信念も考慮する
例えば、筋力トレーニングのように、身体を強化するものと思っていて、自主訓練しながら多少の痛みや疲労感を伴うものと考えている方もいれば、少しの違和感などでも継続する事に不安を感じるものもいます。
こういった背景には、患者自身の価値や信念である「セルフエクササイズは○○であるべき」という考え方が背景にあったりします。
これを考慮せずに、セラピストの良かれと思っているメニューだけを組むとなかなか継続に結びつきません。
こういった事を考慮して、患者とセルフエクササイズのイメージについて話し合う事も重要なことです。
これらは、患者の病気や痛みではなく「人」についての推論が含まれます。物語的リーズニング(ナラティブリーズニング)の一部でもあります。
日常生活の中に落とし込むために一緒に考える
「セルフエクササイズをどのように考えているのか?」やセルフエクササイズをどうすれば日常生活の中に落とし込めるのかについて、理学療法士は患者とともに考えなければなりません。
特に自主訓練を日頃から行ってこなかった患者については特に重要となると思います。
必要とする場面で、最低限のセルフエクササイズを行えない患者が、日常的に運動を用いた自己管理を行うことは、とても高い障壁があると考えた方がいいと思います。
しかし、何かしらのセルフエクササイズを継続する事をきっかけに、自主訓練によるセルフコントロールに関心を示す場合もあります。
実際に必要となる場面(日常生活で実際に痛む場面)を想定して、その場面で確実に行えるセルフエクササイズ法についてこだわって訓練方法を提供するという視点を持つ必要があります。
その為にも、患者は、
- どういった場面で痛みに困っているのか
- その場面で、どういった行動が許されるのか
- そこにどれくらいの時間を割く事が許されるのか
- 患者自身は、どのように対処すべきと思っているのか(価値や信念)
これらを、考慮した上で、適刺激と同等の効果を生み出せるセルフエクササイズを提供する事ができれば、セルフエクササイズによるセルフコントロールは良好なものになると思います。
まとめ
重要になるのは、コンプライアンスを高める事を考えるよりも、コンプライアンスを低減させない事を考えるべきです。
患者を褒める事が、認知行動療法などの手法でありますが、褒める事よりも、どういった形なら患者自身のコンプライアンスを低減させないかを考慮に入れるだけで、セルフエクササイズを継続できるようになると思います。
小手先のテクニックで患者を変えようとする必要はありません。