肩痛の原因となる「五十肩」について解説していきます。
1.五十肩の概要
五十肩は肩関節周囲(関節包)に炎症が生じる原因不明の疾患であり、40〜50代の女性に好発することが報告されています。
別名で肩関節周囲炎や癒着性関節包炎、凍結肩など様々な呼び方が存在していますが、個人的には「癒着性関節包炎」が最も適した疾患名だと感じています。
上の写真は、五十肩の疼痛期(炎症期)が過ぎて完全に肩関節が固まってしまった時期の造影写真ですが、健常者と比較して関節包が非常にタイトになっていることがわかります。
通常のレントゲン写真やMRI画像では異常が見つからず、また、造影でも関節包の縮小がまだない発症初期では異常がないことも診断の特定を困難としています。
初期の五十肩は徐々に炎症が強くなり、疼痛や症状が悪化していくため、初回の来院時に他疾患と誤診しないようにすることがとても大切です。
2.五十肩の鑑別
最も誤診されやすいのは腱板損傷ですが、五十肩の初期では拘縮がないことや炎症も軽度であることから、鑑別が難しいことも多いです。
その時期に私が重要視してるポイントは、①年齢、②性別、③痛みのある部位、④肩峰下インピンジメントの有無になります。
前述したように初期の五十肩は徐々に症状が悪化するため、ここでしっかりと経過の説明をしておかないと、リハビリをしたから痛くなったと誤解されかねません。
理解なき治療は無駄に炎症を強めてしまったり、周りの組織を傷つけることにもなりかねないので、経過の流れだけは理解しておくようにしてください。
3.五十肩は3段階ある
五十肩の最初の段階は「疼痛期」ですが、この時期は徐々に炎症(疼痛)が強くなっていく時期で、1〜2ヶ月ほどでピークに達します。
初期はまだ可動域もあまり制限されておらず、関節包のタイトも認められません。
第2段階は「拘縮期」といい、炎症のピークは過ぎているもののまだ残っており、徐々に炎症している組織(関節包)が縮小していく時期になります。
炎症による疼痛閾値の低下に加えて、筋肉の防御性収縮や関節包の縮小に伴う関節内インピンジメントが起こるため、動作時の痛みを強く訴えるケースも多いです。
最終段階は「寛解期」といい、炎症はほぼ消失した状態となり、それに伴って筋肉の防御性収縮もほとんどみられません。
関節包は縮小して動きは重度に制限されてはいますが、リハビリや普段の動きに伴って徐々に関節包が伸びていくことで可動域も改善していきます。
徒手的に関節モビライゼーションを実施した際は、「痛み」よりも「伸ばされて心地いい」といった感覚となり、痛みを伴わずに積極的なアプローチが可能となります。
4.五十肩の治療法
五十肩の治療は、患者が現在どの段階にいるかで考えていく必要があります。
第1段階にいる場合は、主症状は関節周囲の炎症なので、炎症を抑えるためのステロイド注射が即時に痛みを軽減することにつながります。
ただし、どのような治療を実施しても徐々に炎症は強くなっていくので、一時的で限定的な効果であることを説明しておく必要があります。
炎症を助長させず、かつ拘縮を最小限に抑えるためには、疼痛のない範囲で自動運動をすることが最も有効なリハビリといえます。
第2段階にいる場合は、徐々に炎症は落ち着いていくので、炎症を助長させない範囲(痛みの少ない範囲)で関節モビライゼーションを実施することが有効です。
この時期はまだ痛みが強いケースも多いので、関節周囲で攣縮している筋肉のリラクゼーションや温熱療法を中心に行うようにしても構いません。
第3段階にいる場合は、炎症や周囲筋の攣縮もほとんど消失しているので、積極的な関節モビライゼーションを実施していくことが大切です。
単純に縮小した組織を伸ばすだけの刺激であるなら、痛みよりも心地よい感覚があるはずなので、患者に痛みの有無を尋ねながらアプローチしていくようにしてください。