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「2.認知行動療法に物語推論の要素を取り入れる」
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2.認知行動療法に物語推論の要素を取り入れる

「人をみる」という事が意味しているものとして、前回記事では

「ある事柄が起きた時、その反応は人それぞれ」というような事を解説してきました。(使用している言葉そのものは違います)

この反応の違いを「解釈の違い」によるものとしましたが、これを認知行動療法で行われる正の強化と合わせて、ナラティブリーズニングについての解説をしていきます。

 

認知行動療法での取り組みにナラティブリーズニングを取り入れる

認知行動療法は、慢性腰痛患者の治療に重要とされるような事がテレビ(NHKの試してガッテン、NHKスペシャル)や書籍で取り上げられたりしています。

「認知行動療法が有効だった」という一文を医学文献などでもよく見かけます。

認知行動療法はあらゆる治療法の良いところを吸収しながら拡大していっているので、「認知行動療法とは?」という質問に対して、「ナラティブセラピーとは?」と答えるのと同じように難しい事かもしれません。

(実際、認知行動療法には、第1世代、第2世代、第3世代と続き、従来の行動療法や認知療法には分類されない瞑想やボディーワークなどの要素も盛り込まれています。)

しかし、これでは話が前へ進まなくなるので、認知行動療法の大きな要素を占めていた、行動療法の考え方を、ここでの認知行動療法として捉えて話を進めていきたいと思います。

 

認知行動療法で用いられる「正の強化」として、良い行いをすると「褒める」という事があります。

これはリハビリテーション領域にも取り入れられており、テキストで認知行動療法が解説される場合に主要部分となっていたりします。

一見、「良い事をした時に褒めてあげる事が重要」と正しい事を言っている気もしないでもないですが、

日常的に考えてみて、この考え方は自身の人生経験にも当てはまるでしょうか?

自分よりも何歳も年下の他人に、

「○○さん凄いよー。頑張ってるねー!」

なんて言われて、「よし!もっと頑張ろう!」と思った事はあるでしょうか?

ほとんどの人は、自分自身が納得いってない状態の時に、変な褒められ方をしたら、「この人は何の意図があって褒めているんだろう」と勘ぐってしまい、素直に褒められた事を受け入れられません。

「なんて生意気な常識知らずな奴なんだ」と思いながら、口では「ありがとね」これが一般的に考えられる対応だと思います。

ここでポイントになるのは、

それを言われた患者さんが、それを言った担当理学療法士の事をどう見ているかです。

年下で他人でありながらも、もっと特別な関係を築けていれば、この声かけに素直に喜べる人もいるかもしれません。

しかし、私が思うにですが、このハードルを乗り越えられているセラピストはあまり多くいません。

逆に、少しずつ築き上げてきた患者と理学療法士の関係を、こんな単純な声かけのせいで後退させてしまう事の方が可能性としては大きいように感じます。

これを理解せずに「褒める事が重要」と形だけを真似るのは非常に危険で、まさにナラティブリーズニングができていない状態です。

この人が私に褒められる時にどういった言葉なら抵抗なく聞けるだろうか?褒めるという行為を許してくれるだろうか?これを考えなければ、理学療法士の働きかけは意図しない方向に向く可能性の方が大きいと思います。

 

「褒める事」を受け入れてもらえる働きかけを考えなければいけません。これがこの場面でのナラティブリーズニングです。

先ほど挙げたような褒め方がまかり通るのは、基本的に何歳も離れた年下の患者のみです。

ここで行われるナラティブリーズニングは、どのような視点で行われるのでしょうか?

同シリーズ前回記事でも解説していますが、その人の信念価値、これまでの経験や、今置かれている状況というのが、その人の解釈に大きく影響を与えます。

例えば、みんなよりも目立ちたいと思っている方や、いままで目立つ状況に置かれてきた方であれば、本人に直接言うのではなく、周りのセラピストに確認をとるように、
「○○さん、凄く良くなってない?」
と聞いている様子を見せる事や、周りを巻き込んでそれを伝える事が、その人にとっての最大の褒め言葉かもしれません。

また、直接褒められる事が苦手だったり、恥ずかしがるような人、褒められる体験に乏しいような人は、
「この前、○○さんの事を最近頑張っているって褒めている人がいましたよ。」
と誰かが褒めていたとそっと伝える事の方が、その人の中にスムーズに入っていく事もあります。

何かに憧れをもっている人であれば、それを用いたり、比喩を用いたりする事もできます。自然が好きで公園などを散歩するのが趣味だった人であれば(歩行場面限定になりますが)、
褒めようと思ったタイミングで、「草原を駆け抜けているかのように感じました」とただ感想を伝えると、直接的な褒め言葉を使用せずにポジティブな働きかけを行う事ができます。

 

こういった事は、人を操るために用いられるのではなく、その人への働きかけに工夫を入れるだけです。

作為的な印象を持ってしまい、上記のような働きかけに好感を持てない方もいるかと思いますが、大切な事は、自分本位ではなく、相手が受け入れられる言葉や態度に変換して、それを伝える事だと思います。

決して、人を欺こうと考えたり、コントロールしようと思っているものではありません。もし、そうであるなら、そもそも認知行動療法の正の強化そのものが問題となると思っています。

ナラティブリーズニングはあらゆるものを、その人に受け入れらるように変換するための取り組みであると私は考えています。(もちろん、それだけでは説明がつかない部分も多々ありますが)

「その人」をみた上で、「その人」がスムーズに受け入れられる働きかけを行えるように、理学療法士側が柔軟になっているだけです。その柔軟な対応をするためにナラティブリーズニングが必要になってくると思っています。

上記に挙げた例は、あくまでも一例です。
ナラティブリーズニングは、非常に感覚的で形にできるものではなかったりします。形だけを真似るのは非常に危険ですので、いくつか挙げた例は、ブログという形で伝える際にイメージしやすいよう出したものと思って頂けたら幸いです。最後まで読んで頂きありがとうございました。




特集 » 臨床推論におけるナラティブリーズニング

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