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「6.その人をみて質問の仕方を変える事の重要性について」
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6.その人をみて質問の仕方を変える事の重要性について

理学療法士側から投げかける質問に、ナラティブというものを取り入れると少し臨床が変わってきます。

今までのクリニカルリーズニングの記事でも、部分的に取り上げられている事ですが、理学療法士側から質問を投げかける際のナラティブリーズニングについて解説します。

 

例えば、初回の治療を終了し、2回目の治療場面で、前回の治療後の結果がどうであったかの確認をとりたい場合があります。

この時に用いる質問としては、基本的には「前回治療後はどうでしたか?」だと思います。

しかし、この質問を受け取った患者さんは、その患者さんの解釈で、その質問に答えようとします。

前回治療後がどうであったかという質問は、「期間」に関して、どの程度限定されているのかが曖昧です。

仮に、2回目の治療に訪れたのが、初回治療から1週間後だとしたら、

この1週間全ての事を言っているのか、治療直後の事を言っているのか、もしくはこの中間のどこかしらの事を言っているのか分かりません。

なので、患者が返答する内容は、理学療法士が聞きたかった事とは違う時期の返答をしているかもしれません。

ここで、具体的に聞いていく必要がある事は、今までの記事でいくつか取り上げていますが、
この解釈の仕方についてをここで取り上げます。

 

「治療直後の質問をしている」と解釈する場合と、「治療後からの一週間」という解釈をしている場合に分けてみます。

治療直後の話を答えてくれる患者は、私の経験上、事細く説明しなくても、1つ1つの質問に対して丁寧に返答してくれます。

この時はどうで、こういった時にこうで、、、と患者自身で、理学療法士にとって参考になると思っている情報を提供してくれます。

しかし、この1週間という長い期間と解釈した場合は、前述の対応のような詳細な情報はくれず、全て一括りにして伝えようとします。

なので、仮に2、3日良かったとしても、症状が戻ってしまった場合は、

「何も変わらなかったよ。」

というような返答になりがちです。

これを鵜呑みにしてしまうと、効果があるはずだと取り入れた治療の、その結果が、少し違う形となって理学療法士のもとに返ってきます。

こういった患者の場合に用いる質問は、

「この一週間を振り返ってみて、どういった変化がありましたか?」

というような形で、質問の仕方を工夫しなければいけません。

もし、治療後数日は良かったはずなのに、「何も変わらない」という表現をし、

理学療法士が、その返答をそのまま解釈してしまうと、

ここで、「何ら変化のない治療」という事が既成事実として出来上がってしまいます。

そして会話として出てきたこの事が、さらにナラティブを形成します。

治療自体、取り組んでも意味のない事となってしまいやすいのは、こういうやりとりを繰り返してしまう患者と理学療法士の治療関係にある事が多いように感じます。

このようなナラティブが出来上がってしまうと、自主訓練に移行するきっかけ作りも、

「少しの変化を拡大させていくために」というポジティブなものではなく、

「治療者側が治せないから、自分で取り組ませようとしている」というネガティヴなものになってしまいます。

上記で挙げた例はいつものように一例でしかありませんが、あらゆる場面で、最初に用いた質問の仕方によって、その後の臨床の展開は少なからず変わってきます。

 

私が、試験的な治療を用いた後に患者に主観的な変化の有無を確認する際に聞く質問があります。

余計に痛くなってはないですか?」と「明らかに良くなっていますか?」です。

この質問は、ほとんど同じような事を聞こうとしています。

単純な聞き方をすれば、「治療後の感じは、どうですか?」です。

しかし、使っている言葉は違うし、先ほど挙げた2つは真逆です。聞こうと思っている事は全て一緒なのに、使用する言葉が違う理由は、その人に合わせて聞こうとしているからです。

「どうですか?」という質問は、最もオープンな質問ですので、理学療法士側の操作は入りにくく、患者が感じたものを答えてくれそうです。

しかし、この質問は明らかな違いがある場合を除いて、かなり危険な質問です。

患者側が「どうですか?」という質問を受けた時に理学療法士の事を良いように見すぎてしまっている場合は、ほぼ間違いなく「なんか良い感じです。」というような返答をします。良くなっている場合と、良くなっていない場合の両方が同じような返答になってしまい理学療法士を混乱させてしまいます。

 

この場合に用いるべきは、極端な単語を使用する事です。

「明らかに良くなっている」「逆に悪くなっている」など中途半端な言葉ではない明確な言葉を使用しなければ、先ほどのような中途半端な返答で返ってきます。

患者自身が、一度否定しなければいけない質問の仕方をする事によって、患者自身で感じた事を表現してもらおうと思って選択する言葉です。

「明らかに良くなっている。」という言葉を治療者側は用いにくいと思いますが、ついつい良いように答えてしまう患者には必要な質問の仕方です。

明らかに良くなっていれば、そのまま「はい、かなり良くなっています。」

と答えてくれます。しかし、良くなっているように感じていなかったら、「明らかにではないけど、なんか良い感じではありますよ。」と答えます。
この場合の私の受け取り方は、試験的な治療による主観的な変化はないと解釈します。

また、治療による微妙な変化を感じようとせず、治ったか治っていないかという両極端に考える患者の場合は、「良くなっている」という質問には、「良くなっていない」それだけで終わってしまうので、

「悪くなっていませんか?」というように聞きます。悪くなっていれば、「悪くなっている」と答える事が予想できますし、

少し良くなっていれば、「いいや悪くなってないよ。むしろ少しいい感じの気がする。」というように返答してくれます。

ある程度、治療関係を構築できてくると、変に質問の仕方を考えなくても、患者の方が理学療法士が求めている質問を上手く解釈してくれるようになる事が多く、この場合はニュートラルな質問である「どうですか?」が最も適切な質問かもしれません。

しかし、そうではない場合、しっかりと何かを強調して聞いておかないと、曖昧な返答になる事が多いです。

そしてその曖昧さが、どこに傾きやすいかは、その人によって変わってきます。

患者に投げかける質問は、求めている情報を患者が理学療法士に提供しやすい状態へと、理学療法士側で変換する必要があります。

 

こういった取り組みを、感覚的かもしれないけれど少し意識してみるだけで、臨床には変化が起きます。

上記で挙げた例は一例に過ぎず、臨床で行われる患者と理学療法士のコミュニケーションの全てにおいて、当てはまる部分だと思います。

ナラティブリーズニングでいう「その人をみる」というのは、あらゆる場面で言える事です。

本記事では、理学療法士が用いる質問の仕方を取り上げてナラティブリーズニングの一部分を解説させて頂きました。




特集 » 臨床推論におけるナラティブリーズニング

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