前回の記事では、クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンについて解説しました。
そして、「セラピストが成長するために」という事を考慮すると、クローズドクエスチョンを意識的に行う必要性を付け加えました。
ここでは、前回の記事で触れた事について、もう少し具体的に説明したいと思います。
この記事の目次
問診 オープン&クローズドクエスチョンの具体的な例
まずは、患者から腰痛があるというところまでを聞き出すところから始めます。
症例紹介
- 40代男性
- 腰痛治療目的で来院
- レッドフラッグ(-)
- メカニカルペイン(+)
- 簡単な問診から「腰に痛みがある」という情報が得られています。
セラピスト「痛みの場所はどこにありますか?」
患者「腰に痛みがあります。」
痛みの場所について省略されているものを復元した結果、「腰部(下位腰椎レベル)中央で手のひら程度の範囲に疼くような鈍痛がある。」という患者からの情報があったとします。
そこから、セラピストはいくつかの仮説が思いつくはずです。
ここでは、セラピストが椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症を疑っているとして、その後の問診を注釈を加えながら解説していきます。
想定している推論様式としては仮説演繹推論法となります。
(診断は医師が行うものです。セラピストが独自に判断する事を推奨しているわけではありません。マニュアルセラピーにおける機能異常・機能障害を判断するための問診場面でのリーズニングプロセスを解説する事を目的としてこの記事は書かれています。しかし、機能異常や機能障害を説明しようとすると、学派によって使用する言葉や解釈が異なるため、ここでは解説しやすいようにと、一般的に理解しやすく臨床でも経験する事が多いと思われる疾患を挙げて解説させて頂いています。)
椎間板ヘルニアを疑うクローズドクエスチョンの例
- 「脚に痺れはありますか?」
- 「前屈みの姿勢は痛みますか?」
- 「くしゃみや、いきみで痺れや痛みは出ますか?」
- 「起床時や朝の時間帯が一番痛むという事はありますか?」
もし、椎間板ヘルニアを疑っているなら、これらの事を聞いているセラピストと聞かないセラピストでは判断のための材料が違うため、聞いているセラピストの方が確からしい判断をする事において有利です。
以下は、オープンクエスチョンで聞いた場合ですが、上記で列挙したクローズドクエスチョンと同様の意図があります。
- 「腰が痛む事の他に気になる症状はありますか?」
→1を聞こうと思っています。 - 「どうした時が特に痛みますか?」
→2、3を聞こうと思っています。 - 「時間帯はいつごろが一番痛むでしょうか?」
→4を聞こうと思っています。
前回記事では、まずは確認漏れを出さないように、クローズドクエスチョンで聞くべき事を全て聞いた方が良いという説明をしましたが、それは工夫されたオープンクエスチョンに発展させるためです。
上記のクローズドクエスチョンを理解していれば、患者がオープンクエスチョンに対する返答で提供してくれる情報に反応できるようになりますし、聞きたい事柄を強調して聞く事できるようになるはずです。
つまり、この工夫されたオープンクエスチョンには、クローズドクエスチョンで聴きたい内容が含まれています。
脊柱管狭窄症についても、クローズドクエスチョンと工夫されたオープンクエスチョンを挙げてみます。
脊柱管狭窄症を疑うクローズドクエスチョン例
- 「腰を反らす動きで症状は強くなりますか?」
- 「歩くと脚に痺れが出ますか?」
- 「症状が出だすと、歩けなくなってしまいますか?」
- 「休憩をとれば再び歩けるようになりますか?」
上記を意識したオープンクエスチョンです。
- 「特定の体勢や運動で症状は拡がったり強くなったりしますか?」
→1、2を聞こうと思っています。 - 「痛みのせいで何かができないといった事はありますか?」
→3を聞こうと思っています。 - 「その時は、どうすればその症状は落ち着きますか?」
→4を聞こうと思っています。
(ここでの解説は、椎間板ヘルニアでの解説同様ですの省略します。)
なぜオープンクエスチョンで聞けるようになるべきなのか?
これは、前回の記事「4.オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンについて」でも挙げた、
- 質問責めになってしまい、患者が尋問されているような気になってしまう。
- 患者が疲れてしまい、返答の正確性が失われしまう。
そして、これら以外にもデメリットがあります。
クローズドクエスチョンを用いるデメリット
もし、セラピストが特定のキーワードを使う事なく、患者自身で、特定の疾患を疑うキーワードを使用すれば、ここで得られた情報は、セラピストとのやりとりによる影響(バイアス)をほとんど受けていない純粋な患者の症状を示す情報である可能性があります。
もし、セラピストが「痺れはありますか?」と聞いた場合、患者は「痺れが有るか無いか、ハッキリは分からない。これは痺れなのかな?」といった返答をする事があります。
これは、痺れが以前にあって、現在の症状は、それではないと明確に言える人でなければ、基本的には分からないはずです。
そうでない人にとっては、「よく分からない」が極普通の返答です。
しかし、このよく分からない症状を無理に解釈しようとする患者では、きっとこれは痺れなんだろうと解釈し、返答は「はい、痺れています。」になってしまいます。
痺れではなく、痛みがある事を訴えたい患者では、「痺れはない。痛いんだよ。」と返答されてしまっている可能性があります。
また、症状に困っている事をセラピストに知ってほしいと思っている患者では、症状が強いという表現になりそうなもの全てに「はい、そうです。」という返答をしやすくなってしまいます。
このような、直接的な情報の集め方では、問診から得られる情報の確からしさは損なわれてしまいます。
これらの誤情報については、再度確認をとったり、具体的に話してもらう事で修正は可能ですが、このやりとりはセラピスト・患者ともに余計な労力となってしまいます。
セラピスト側が、特定のワードを使ってしまうと、患者によってはそれだけで、その症状がある気がしてしまい、返答に影響を受けてしまいます。
ポイントは「特定のワードを使わずに聞き出せるか」
セラピスト側が重要なワードを使用せずに、患者自身でそのキーワードを発した場合は、セラピストが誘導した返答より価値のある説明と考える事ができます。
聞きたいキーワードを直接使用せずに、患者自身から発せられるような工夫されたオープンクエスチョンで聴けるようになれば、問診の技術が高いと言えます。
もちろん、最初からそのような事は難しいので、まずは前回の記事でも触れたように、ある仮説に対するクローズドクエスチョンをしっかり準備し、一つずつ確認をとるように聞いて、統合できる質問は整理していきます。
最初はそのやりとりを行っていき、それらの質問をオープンクエスチョンで聴く方法をセラピスト自身で考えていきます。
オープンクエスチョンで、自由度を制限しながら、もしそのような事があるなら、ついつい患者自身から発してしまうような聞き方ができるようになれると、問診の技術が高いといえるのではないかと思います。
二つの仮説を同時進行で疑うオープンクエスチョンの例
先ほどのそれぞれの仮説を考慮して行なったクローズドクエスチョンのうち、まとめられそうなものを統合してみます。
- 「痛み以外で気になっている事はありますか?」
- 「どういった時に痛みが強くなりますか?」
この質問は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症を疑った時に聞くオープンクエスチョンです。
「痛み以外で」という言葉を用いた理由
痺れという言葉使わずに、痺れがあるかを聞いています。
もし、痺れがあれば、痛み以外というものが「痺れ」を連想させてくれます。
痺れがなければ、痛み以外という言葉で痺れに関する事は思い浮かばないので、「痛み以外にはない」というふうに答えるでしょう(もしくは、痛みでも痺れでもない他の何か)。
「どういった時」という言葉を用いた理由
この聞き方は、「条件」がとても曖昧です。
「時」という言葉が何を意味しているかは、それを聞く人によって解釈が異なります。
歩行している時と解釈する人もいますし、午前中だとか何時だとか、時間軸で解釈する人もいます。
もちろん、断言はできませんが
- 腰を反らす事や、歩行という特定の動作・運動をしている時について話せば、脊柱管狭窄症
- 前かがみや、くしゃみをした時などの特定の動作・運動をしている時について話せば、椎間板ヘルニア
- 朝の時間帯という時間軸について話した場合も椎間板ヘルニア
というふうに仮説の優劣をつけれるでしょう。
まとめ
最後に挙げた質問の仕方は、自由度はやはり高めなので、セラピストが意図している通りに問診が進められるとは限りません。
その場合は、得られていない情報のみ、クローズドクエスチョンを用いて自由度を制限して何について答えるかを制限していくことができます。
先に挙げたクローズドクエスチョン以外に以下に、私自身が重要と考えている(キーワードが含まれた)クローズドクエスチョンを列挙します。
いくつも挙げると、まとまりが無くなってしまうので、これまでの記事で触れてきたイリタビリティーやセンシティビティーの存在を疑うクローズドクエスチョンをいくつか列挙します。
(イリタビリティなどについてはこちら→ 7.価値のない悪化について ~イリタビリティー、センシティビティー~)
- 「痛んだ時、それが落ち着くまで1分以上かかりますか?」
- 「仕事などで痛みが強くなったとしても、次の日にはまたいつもの症状の状態に戻りますか?」
- 「寝れない、動けない、といったような日常生活上の制限はありますか?」
- 「日に日に痛くなる・悪くなるといった事はありますか?」
- 「特定の動きを繰り返す事で、痛みは強くなっていきますか?」
評価・治療を進めていくうえで、イリタビリティーやセンシティビティーの有無は非常に重要になってきます。
最初のうちは、クローズドクエスチョンで、明確な質問を行いつつ、これらをオープンクエスチョンで同時に聴けるものや、キーワードを含めずに聴けるものに修正できないかを今後の臨床で実践しながら試してみてください。
地道ですが、この積み重ねが、問診力の向上につながります。