質問の仕方は、「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」に分ける事ができます。
この2種類は、どのような返答が想定されるかによって分類されたものです。
オープンクエスチョンとは、返答者が自由に答えられるような質問の仕方で、クローズドクエスチョンは返答者がイエスかノーで返答したり、ある制限の中で答えなければならない質問の仕方です。
たとえば、「どういった症状がありますか?」これは、オープンクエスチョンです。
「腰に痛みがありますか?」これは、クローズドクエスチョンに当てはまります。
よく言われている事は、オープンクエスチョンは返答者の考えを聞き出しやすく、会話が続きやすい。クローズドクエスチョンは、「はい」か「いいえ」での返答なので、考えを聞き出す事は難しく、会話がその場で終了しやすいと言われたりします。
マニュアルセラピーに関する書籍の「問診」について解説しているものや、講習会での説明などでは、まずはオープンクエスチョンで、ある程度症状を聞き出し、クローズドクエスチョンで確認をとっていく事が望ましいといった説明がなされる事があります。
この点について、解説を加えたいと思います。
この記事の目次
問診場面でのオープンクエスチョンの特徴
まず、オープンクエスチョンについてですが、単純なオープンクエスチョンは、患者側が話す内容を自由に決めれるので、セラピスト側が質問を考えるという負担はほとんどなく、答える方も何度も質問を繰り返される事がないので「尋問されているような感じ」を受けません。
しかし、オープンクエスチョンでの回答の自由度の高さのせいで、回答内容がセラピストが聞きたかった事(メインテーマ)からそれてしまう可能性があります。
また、自由度の高さゆえに、回答者が何を(もしくは、何から)話していいのかわからず、混乱してしまう事もあります。
これらは、前回の記事で解説したアジェンダの設定をしっかり行えていれば、話が大きくメインテーマからそれる事と、何を話していいかわらないという問題を未然に防ぐ事ができます。
適宜、クローズドクエスチョンを加え精度を上げる
オープンクエスチョンでざっくりとした質問をする際に、ちょっとした工夫を加えると、自由度の高さをセラピスト側がコントロールする事ができます。
例えば、
「あなたの症状を教えて下さい。」(オープンクエスチョン)
この質問に続けて、「例えば、腰骨のあたりが痛いといったような(腸骨あたりをセラピスト自身の身体を触りながら)事はありますか?」(クローズドクエスチョン)
このような、追加のクローズドクエスチョンです。
付け加えた質問は、クローズドクエスチョンではあるものの、イエスノーで答えてもらう事を意図していません。
先のオープンクエスチョンに対して、どういった回答が適切かを無意識的に伝えています。
そして、「例えば・・・、○○といったような…」という表現をする事によって、単なるクローズドクエスチョンではない「回答の仕方」をガイドしています。
この2つの質問の関係は、順番入れ替える事も可能です。
「例えば、腰骨のあたりが痛む(腸骨あたりをセラピスト自身の身体を触りながら)事はありますか?」(クローズドクエスチョン)
この質問に続けて、返答を待たずに「どういった症状で困っていますか?」(オープンクエスチョン)
とする事もできます。
先のクローズドクエスチョンが、後のオープンクエスチョンの布石となって、セラピストがどういった情報が欲しいのかを伝えています。
この質問において、だいたいの場合で、患者は疼痛部位についての情報を教えてくれるはずです。
布石のクローズドクエスチョンが、「どうすると痛いか(疼痛誘発動作について)」に関する事を聞いておけば、後のオープンクエスチョンによる返答で、疼痛誘発動作について教えてくれます。
このオープンクエスチョンの自由度の高さを、前後のクローズドクエスチョンによってコントロールする事ができるわけです。
そして、患者から発信された情報の省略されている部分を上手く復元させながら情報の価値を高めていきます。(1.問診で具体的に聴く技術「省略」について)
そして、ここで聞き出せた事を、もう一度クローズドクエスチョンによって イエス or ノー で返答させ、最終確認をとる事で確かな情報として解釈する事の価値ができます。
理学療法士「腰のこの部分(痛い場所を指し示しながら)に痛みがあって、他に別の個所(下肢などをさすりながら)が痛むことはありませんね?」
患者「はい。ありません。」
確認のクローズドクエスチョンはより具体的でなければ意味がありません。
セラピストが把握している事と、患者が伝えようとした事にずれはありませんね?とクローズドクエスチョンによって確認をとって、このやりとりを一旦終了とする事ができます。
最初は、ひたすらクローズドクエスチョンを繰り返す
別の視点から考えたとき、例えば、
「問診能力を高める為」
「セラピスト自身が成長していくために」
という事を考えた場合は、ひたすらクローズドクエスチョンを繰り返す方法も良い方法です。
腰に痛みがあるという患者に対して、
- 「膝より下にしびれを伴いますか?」
- 「腰より脚の症状が強いですか?」
- 「朝は特に痛みが強いですか?」
- 「立っている時より座っている時が辛いですか?」
などです。
単純に、なんでもかんでも質問攻めをしろという意味ではありません。
これらの、例として挙げた質問は、椎間板ヘルニアを疑う際に確認しておくべき事です。
この質問に対して、ルール通りに答えてもらえた場合は、セラピストが聞きたい事について、シンプルに情報収集を行うことができます。
この質問の仕方を連発してしまうと、患者は尋問されているような気になってしまいそうですが、セラピストが今後成長していくという事を考えた場合は、ある仮説を証明するために聞いておくべき事を、漏らす事なく聞いておくべきです。
なお、この時に、仮説を証明するために聞いておくべき質問については、セラピスト側が事前に準備できていなければなりません。
クローズドクエスチョンの特徴
クローズドクエスチョンなら、知りたい情報を一つずつ確認をとることで、一応は漏れなく情報を得る事ができます。
同じような事をオープンクエスチョンで得ようとするなら、セラピスト側からの確認をする事なく、先ほど挙げたような「膝下にしびれを伴うか?」、「腰より脚の症状が強そうか?」、「特に朝の時間帯に痛みが強いか?」といった事の返答になる事を期待するか、もしくは、オープンクエスチョンの自由度をコントロールしながら、情報を得ようとする働きかけを行わなければならず、多くの確認漏れが起こる可能性があります。
この場合、一つの仮説(ここでは椎間板ヘルニアについての質問)についての質問を仮定していますが、臨床では、あらゆる次元の情報をできるだけ効率的にかつ、確からしい情報として得たいはずです。
経験豊富なセラピストは、オープンクエスチョンを高度な技術で、自由度をコントロールしながら多次元の情報を得ています。
よって、クローズドクエスチョンを連発する問診スタイルの将来には、それらの情報がオープンクエスチョンで聴けるようになるという目標の基に行われなければなりません。
優先度が高いものからクローズドクエスチョンを用いて確認
現在の症状を把握するために聴く問診を行いながら、同時に症状の原因を探る事を目的に椎間板ヘルニアによる神経学的異常と、(構造障害ではなく)体性機能異常・機能不全による症状や関連痛などの可能性も考慮した質問を、一つずつクローズドクエスチョンによって聴いていくという事を考えてみると、現実的に不可能です。
あまりにも多くの質問に患者も答える事に疲れてしまいます。
仮に、全て答えてもらえたとしても、このような状況での返答は、正確性が失われています。
ですので、まずは、一つ一つ確認すべき質問事項を事前に分けて、冗長になりすぎないように注意しながら、まずは優先順位が高いものからクローズドクエスチョンで確実に確認を行っていきます。
まとめ
クローズドクエスチョンを繰り返す事によって、問診に関する多くの経験を蓄積できてくれば、工夫されたオープンクエスチョンを行えるようになります。
単純なオープンクエスチョンは誰にでもできますが、工夫されたオープンクエスチョンは、その領域での経験を積んだセラピストにしかできない臨床技術の1つです。
問診票の穴うめや、項目にチェックをつけるためだけのような問診では、その後のクリニカルリーズニングを価値あるものとする事が難しくなります。
工夫されたオープンクエスチョンを意識しながら、まずは聞くべき事について徹底的にクローズドクエスチョンで質問していくという事が肝心です。