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「【付録】痛み症状を訴える患者に対する問診 重要4項目」
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【付録】痛み症状を訴える患者に対する問診 重要4項目

本記事は、クリニカルリーズニングについて書いた特集シリーズ「初回の問診とコミュニケーション」の追加記事となっています。

この記事では、徒手療法を用いる際の、初回の問診時で聞くべき項目を4つ挙げ、解説していきます。

徒手療法を適用する上で、重要な3つのポイント

徒手療法を適用する上で、療法士が事前に知っておくべき重要な3つのポイントとして、

  • 痛み(症状)
  • 検査や評価の制限
  • 大まかな予後

これらが挙げられます。

2番目の「検査や評価の制限」とは、イリタビリティー、センシティビティー、重症度から、評価を制限して実施する必要があるかどうかのリスク管理を指しています。

今回の記事では、これらを把握する為に、実際に問診で聴くべき項目について絞って解説していきます。

以下が、特に重要となる4項目です。

  1. 部位、痛みの場所
  2. 増悪因子と軽減因子
  3. 種類:痛みの質
  4. 経過

 

1.どこが痛いか(部位、場所)

  • 範囲を実際に指し示してもらう
  • 「どこが最も痛みますか?そこからどこまで痛みがありますか?」
  • 「上はどこからですか?下はどこまでですか?」

痛む場所を言葉のみで説明するやりとりは、患者と理学療法士が思い描いている部位が異なる可能性があるため、実際に指し示してもうらう事が重要です。

部位を示さずに「全部痛い」「わからない」というように答える患者の場合は、あえて、明らかに違うであろう場所を触り「ここが痛いのですか?」と聴いてみます。

だいたいの場合、患者はそこではないと返答してくれます。

そこで、理学療法士は患者の返答に続けて「では、どのあたりですか?」と聴く事で、曖昧な返答をする患者の場合でも問題なく疼痛部位を聴き出せます。

痛む場所を指し示したあとは、ここだけなのか、そこから範囲があるのかを確認します。

 

-解説-

答えに困る患者に対しては、まずは否定させる事によって、そこから具体的な部位を説明をしてもらえるようになる場合が多いです。

しっかり聞く事ができたなら、

「もう、他には痛い所はありませんか?」

「痛みがあるのは、今確認がとれた部位だけで宜しいすか?」

という質問で痛みの部位に関する質問を締めくくる事ができます。

 

2-1.どうすると痛いか(増悪因子)

  • 運動時痛か安静時痛かを確認する。
  • そして、今痛いのか、痛かった時の話をしているのかを明確にする。
  • 今この場で、患者の言う「痛み」を共有できるかが重要

そのためのシンプルな確認方法は、実際に見せてもらうことです。(機能的実証)

 

「では、その痛みが出る動きを見せてもらえますか?」

仮に、痛みを再現できなくても、痛みが出るとしている動作・姿勢を実際に見せてもらいます。

(痛みが再現できない場合は、そのまま以下のように続けます。)

「痛みは出てないようですが、どうすれば、先ほど言っていた痛みが出てくると思いますか?」

これで、疼痛誘発動作に近ずくことができます。

それでも、痛みが出ない場合は、時間的な要因が関わっている可能性がありますので、

「この姿勢をどれくらい続くと痛みが出てきますか?」
「この動き(例えば歩行)をどれくらい続けると痛みが出てきますか?」

などと追加の質問を行い、疼痛出現までの時間的条件を確認しておきます。

この追加の質問を行っておく事により、

  • 家に帰った時に実際にそれがどうであったかを確認してもらう事ができる。
  • 疼痛誘発動作について、具体的な話ができる。
  • 本当はもう痛くなくなっている事に気づける可能性もある。

というメリットがあります。

 

どうすると痛いかについては、運動や姿勢の条件を聴き、時間的な条件についても必要に応じて確認します。

疼痛出現に時間的条件が加わっている場合は、その時間を大まかにでも聞いておき、「わからない」と答える場合は、それを次回までの宿題とする事ができます。

セラピスト側の聴取ミスで、そこまで掘り下げなかったという事にならないように注意します。

患者の言う「この動きをすると痛い」という動作で、痛みが実際に出せたなら、再び痛みが出ている部位を確認します。

痛む場所を想起して説明している場合と、実際に今痛む最中に説明する場合は、説明内容が異なる事があるからです。

ここで喰い違いがあれば、もう一度、疼痛部位についての聴取に戻る必要があります。

 

この時点で、検査に制限を加える必要があるかがわかります。

痛み出した時に会話もできない状態や、顔を強くしかめるようなら、症状の重症度が高いと判断し、後の検査や評価に制限を加えます。

重症度が高くないのであれば、その痛みは、それを続けると増してくるかを確認します。
→イリタビリティーを確認しています。

その痛みは、動作を繰り返す事によって出やすくなるかについても確認しておきます。
→センシティビティーを確認しています。

重症度、イリタビリティー、センシティビティーが高ければ、その後の理学療法士評価を手短に、そして安全面を考慮した上で行う必要があると判断できます。

また、痛みを誘発するような検査を行う前には、検査による症状の増悪が起こらないように考慮するが、その可能性があるという事と、検査をする必要性(意義)について、丁寧に説明しておく必要があります。

これを納得できない患者の場合は、検査はこの段階では行わないというのも選択肢の1つです。

これ以上の検査を実施せずに、安全と思われる物理療法のみの治療や、荷重制限・安静度を高めるなどの医学的管理下に置くなどがベターな対応となります。

 

2-2.どうすると痛くないか?(疼痛軽減因子)

  • 「常に痛む」という患者の場合は特に有効な質問です。
  • それ自体が治療の方向性をある程度決定する場合もあります。

 

「痛くなったらどう対処しますか?」

質問の答えに困る患者については、具体的な例をいくつか理学療法士から出してあげます。

この場合は、理学療法士が求めている答えの逆を聴く事をまず優先すべきです。

理由としては、返答の誘導に繋がる可能性が高く、問診結果の確からしさを損なうためです。

例:「早歩きすると改善するとか…」(患者が喋り出すのを待つ)
→「いや、座って休憩する事が多いかな。」
(これは、クローズドクエスチョンに見えるオープンクエスチョンです。)

患者は、クローズクエスチョンについて否定した上で、患者の自由な言葉で、どうすると痛みが和らぐかを話してくれます。

ここで、もし「座って休憩すると痛みは和らぎますか?」と聞いてしまい「はい、そうです。」との返答した場合は、

この答えが、ただの会話の流れで答えたものか、本当にそうなのかが曖昧になります。

常識的なクローズドクエスチョンは、返答者は特に考えずに答えてしまう可能性が高いので注意が必要です。

それでも、答えに苦しむ場合は、理学療法士の予測をダイレクトにクローズドクエスチョンで聴くしかありません。

「座って休憩ですか?それともストレッチなどをしたりしますか?」

このような形で得られた情報は、情報の有効性としては価値が低くなりますので、他の情報と合わせて、その信憑性を総合的に判断する必要があります。

 

3.どのような痛みか?(種類)

痛みを患者の言葉で表現してもらいます。

これは、痛みの質(返答)から機能異常に対する仮説を立てる事にも役立てられますが、別の大きなメリットがあります。

そのメリットとは、様々な症状を訴える患者の場合は、今後特定の痛みの事を聴く際に、どの痛みの事を聴こうとしているのかを患者に理解してもらいやすくなるためです。(痛みの名詞化)

疼痛検査中にたまたま出た痛みと、今問題となっている生活上の痛みを区別する事ができます。

例えば、

疼痛検査を実施→疼痛誘発→「この痛みはズキズキ疼く、あの痛みと同じような痛みですか?」

yes:疼痛を再現
no:検査で偶発された痛みの可能性

単純に痛いか痛くないかだけを聞いてしまうと、再現させたい痛みと無関係な疼痛誘発を、再現できたと勘違いしてしまう可能性があります。

 

-補足-

特定の痛みを共有するための手法としては、

  • 痛みの出方「しゃがみ込んだ時のあの痛みと似ていますか?」
  • 痛みの場所「お尻から膝裏に出るというあの痛みと似ていますか?」

というように、疼痛を名詞化する方法は、痛みの質だけではないので、患者が理解しやすいものを選択します。

「どこ?」「どうすると?」「どのような?」この3つが特定の痛みを話す時のキーワードになるものです。

患者によって、用いやすいキーワードは異なるので、患者が受け入れやすいものを理学療法士側が選択する必要があります。

 

増悪因子と痛みの質を聴く順番について

問診では、まずは、どこが痛いかを明確にし、次に「2.増悪因子」か「3.痛みの質」のどちらかを先に確認します。

これについては、順不同で構わないと考えています。

2→3の順番の場合はこうなります。
「腰の痛みをどうすると痛いか?」→「それはどのような痛みか?」

3→2の場合はこうです。
「腰の痛みはどのような痛みか?」→「それはどうすると出てくるか?」

一般的なテキストでは、後者が推奨されていますが、臨床的には大きな差はないと思っています。しかし、個人的には、前者を多用する事が多いです。(2→3の順番)

その理由としては、動き方によって痛みの質が違う事があるからです。

 

-例-

患者「腰を曲げると痛い、反らしても痛みが出る。」

PT「曲げる時はどのような感じですか?反らす時の痛みとは同じ感じですか?」

患者「曲げる時は腰がつっぱる感じ、伸ばす時は締め付けられて重苦しい感じ。」

 

最初に痛みの質を聞かれると、疼痛部位が複数ある場合は、患者はどう答えていいかわからず、返答に困る事があります。

また、理学療法士が運動や姿勢などの機能的な問題を治療対象にしている以上、「部位」+「運動や姿勢の条件」についてのそれぞれの質を確認する事が良いと考えています。

 

4.症状の経過

今まで話してきた痛みが、どのような経過で今に至っているのかを聴きます。

  • どんどん良くなって今の状態
  • 一週間前よりも酷くなって今の状態
  • 1年前から今の状態

経過によって、今の症状に対するアプローチは変わってくる事が予測されます。

どんどん良くなって今の状態であれば、そのまま良くなる事が予測できるので、理学療法士は余計な事をしないほうが良いかもしれません。

疼痛を誘発しすぎて、結果的に悪化(回復プロセスを検査が阻害)させてしまう危険性がある事を理解していなければいけません。

酷くなっている状態の時は、疼痛を誘発させる検査を行うよりも、現時点でできる応急処置が急務となる場合があります。

余計な疼痛誘発はさらなる悪化を招く危険性があり、基本的にはこの状態では深入りしない(疼痛検査を行う危険性を考慮すべき)ほうが得策です。

一年前から同じ(しばらく同じ状態が続いている)という場合が、まさに詳細な理学療法士評価の対象となる状態と言えると思います。

基本的には症状の部位、出方、質を聞いて、現時点での疼痛の状態を共有できた段階で、それから「経過について」を確認するという順番が、誤った情報が入ってくる事を防げます。

患者は痛み出した最初の頃の話や、つい最近の1番酷かった時の症状を話したがる傾向にありますが、それは重要な情報ではない可能性もあります。

まずは、今の状態を把握し、それから過去の話に戻っていく方が、情報の混乱を招きません。

それから、「症状の経過」を丁寧に聴く事によって、ある程度の未来を予測する事ができます。

 

追加:その他にも聴いた方が良い事

例えば、

  1. 症状の順位付けと、治療目的(患者の価値観)
  2. 特殊な質問

なども、初回の問診で確認できる事が理想です。

 

1.症状の順位付け

症状が複数ある場合は、症状に順位をつけてもらう必要があります(価値観の確認)。→患者は何から取り組みたいか?

例「右腰殿部と左膝が痛い」

この2つの症状は関連性があるかもしれないし、無いかもしれません。

もし関連性がある場合は、病態としての関連性か、機能障害としての関連性か、などが考えられます。

病態例:腰部疾患により下肢症状が出現→両下肢に出ているが右は殿部で左は膝に出ているという可能性

機能障害例:腰部痛があり、それを代償するために歩容を修正→結果的に左膝へメカニカルストレス

この段階では、早急な判断ができないため、どちらを患者自身が重要視しているかを確認しておきます。

  • 「日常生活上でより困っているのはどちらですか?」
  • 「より痛みに困っているのはどちらですか?」
  • 「どちらから治療してほしいと考えていますか?」

症状の順位付け(患者の価値観の確認)は行うが、クリニカルリーズニングにおける基本は、複数ある症状の場合はそれが1つの原因によるものであると考えます→これを「オッカムの剃刀」と言います。

 

-オッカムの剃刀についての解説-

咳が出て、高熱が出て、嘔吐があった患者→インフルエンザを疑う

咳は「扁桃腺炎」、高熱は「インフルエンザ」、嘔吐は「食あたり」というような別々の仮説は立てません。

「オッカムの剃刀」を理学療法士は、病態と機能障害の両面から考える必要があります。(医師は、基本的に病態のみから考えている。)

 

また、治療をどのように考えているかについても確認する必要があります。

例えば、「定期的に通院しながら治療したい」、「医者にリハビリに行けと言われたから」という、この2つでは治療の進め方が異なります。

※ これについては、特集シリーズ「ナラティブリーズニング」にて解説します。

 

2.特殊な質問

  • 健康状態についての質問
  • レッドフラッグやその他のフラッグの有無に関する質問
    (これについても、ここでは割愛させて頂きます。)

 

まとめ

これらの問診の項目を列挙したものは、私の経験上「このように問診を進める事が臨床的に効率が良い」と、現時点で思っているものです。

問診は経験を通して、そのスキルが高まっていくものなので、今後変更の必要性が出てくるかもしれません。

全てを鵜呑みにせず、自身の臨床にも採用できるそうだと思えるものを活用してみて下さい。

なお、その際は自身で解釈できる範囲に留めて下さい。質問の意図をあまり理解せずに、また特別な意図を持たずに、形だけ真似ると非常に危険です。

文面だけを読むと、中には患者に失礼な言い回しや、対応の仕方になってみえる箇所もあるかと思います。

これは、問診を行う上で私自身が重要と思っているので、ここで解説したような方法で確認をとっています。

その時は、私なりに丁寧に確認をとるように心がけていますが、記事内では、箇条書きのような形で解説していたり、文面だけだと伝わらないものもあるかと思います。

自身で、解釈できる範囲に留めて参考にして頂けたら幸いです。

また、問診が上手くいかなかったタイミングで読み返してみると、より解釈しやすくなるかもしれませんので、何度も読み返しながら参考にして頂けると嬉しいです。




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