高齢者に多い「腰部脊柱管狭窄症(LCS)」について解説していきます。
1.腰部脊柱管狭窄症の概要
リハビリの病名で「腰部脊柱管狭窄症」と書かれていることは多いですが、患者の訴える腰痛が本当に脊柱管狭窄症なのかはセラピストも鑑別する必要があります。
臨床的には、以下の項目に該当する場合は、腰部脊柱管狭窄症に伴う疼痛である可能性が高いです。
- 腰部に痛みはない
- 両殿部や両下肢に痛みや痺れが出現する
- 間欠性跛行がある
- エアロバイクは問題なく可能
- MRIで馬尾(硬膜)に圧迫が認められる
- 神経障害が認められる
これらの項目に当てはまる場合は、腰部脊柱管狭窄症の関与が強く疑われます。
2.LCSで腰痛は起こらない
基本的に腰部脊柱管狭窄症では腰痛が起こらないので、主訴が腰痛の場合は、その時点で原因が別にあると疑う必要があります。
腰部脊柱管狭窄症で圧迫を受けるのは「馬尾(神経)」と「硬膜」です。
神経が圧迫されて起こる症状は、痛みではなく痺れであり、筋力低下や腱反射の低下・消失などと合わせて、MRI画像の障害レベル以下に一致した神経障害が認められます。
馬尾の表層は硬膜に包まれていますが、硬膜には痛みを感じる神経が存在しており、殿部や下肢に疼痛が波及します。
そのため、腰部脊柱管狭窄症が疼痛の原因であるなら、腰痛ではなく殿部下肢に疼痛が出現することになります。
3.LCSのMRI画像
上は典型的なLCSのMRI画像ですが、このケースでは椎間板膨隆や黄色靭帯の肥厚が狭窄に関与しています。
健常者では腰椎を後屈させると脊柱管の断面積が9%減少するのに対して、狭窄症患者(黄色靭帯が肥厚している患者)では67%も減少することが報告されています。
そのため、黄色靭帯の状態については、必ずチェックしておく必要があります。
4.腰部脊柱管狭窄症のリハビリ治療
なにが原因で脊柱管が狭窄しているかでリハビリの内容も変わりますが、基本的には組織変性にて起こっているため、リハビリでの改善は期待できない場合が多いです。
唯一、症状の緩和が期待できるのは腰椎前弯の増強で狭窄症をきたしているケースであり、その際は姿勢矯正による効果が期待できます。
腰椎前弯を増強させる因子として、①脊柱起立筋(多裂筋)の過緊張、②腸腰筋の過緊張、③大殿筋の弱化が挙げられます。
また、椎間関節に拘縮をきたしている場合も多いので、椎間関節モビライゼーションを実施するようにします。
周囲の組織を十分に整えることができたら、仰向けで両下肢を屈曲させて、身体(下位腰椎)を丸めるようにしながらストレッチングしていきます。
歩行量が落ちることで二次的な障害をきたす可能性も高いので、負担のかからないエアロバイクなどを実施してもらい、筋力や持久力の低下を防止していくことも推奨されます。