腰椎椎間板ヘルニアについて解説していきます。
この記事の目次
1.腰椎椎間板症ヘルニアの概要
リハビリの病名で「腰椎椎間板ヘルニア」と書かれていることは多いですが、患者の訴える腰痛が本当にヘルニアによるものなのかはセラピストも鑑別する必要があります。
結論から書かせてもらうと、ほとんどの腰椎椎間板ヘルニアは腰痛とは関係なく、そもそも腰痛を引き起こすのかも疑問が残るところです。
臨床的には、以下の項目に該当する場合は、腰椎椎間板ヘルニアの可能性が高いです。
- MRIで椎間板ヘルニアが存在する
- 椎間板ヘルニアが存在するレベルに一致した神経症状がある
神経症状とは、①感覚障害、②筋力低下、③腱反射の低下(末梢性麻痺)が挙げられます。
神経が圧迫されることで起こる感覚障害は「しびれ」であり、「痛み」ではありません。
正座をしたあとに足先がしびれるのをイメージしてもらうとわかりやすいですが、あれが純粋な神経圧迫の症状であり、痛みとは少し違うことがわかるはずです。
そのため、患者が下肢にしびれを訴えることがあっても、本当にそれはしびれなのか、それとも痛みなのかを区別することが必要となります。
2.腰椎椎間板ヘルニアの種類
腰椎椎間板ヘルニアを大きく分けると、「正中型」と「外側型」の2つに分類できます。
最初に掲載した画像は、腰椎椎間板ヘルニアで最も多い(約8割)とされる傍正中型であり、椎孔内で馬尾を圧迫しています。
L4/5間に発生している場合は、L5神経を圧迫することになり、L5レベルの神経症状を確認する必要があります。
基本的に後方へ飛び出したヘルニアが圧迫するのは前根であり、そのレベルに応じた筋力低下(運動障害)を引き起こします。
それにも関わらず、MRIで傍正中型のヘルニアが認められ、症状が感覚障害のみというケースは本当に腰椎椎間板ヘルニアが原因かを再考するようにしてください。
次いで、椎間孔内で神経根を圧迫する外側型がありますが、こちらはL4/5間に発生している場合は、L4神経を圧迫することになり、L4レベルの神経症状を確認する必要があります。
外側型ヘルニアは強い腰痛を伴うケースが多く、そこには神経炎や椎間関節炎などが関与していることが推察されます。
正中型と外側型の違いとして、正中型では腰椎屈曲位で症状が増悪し、外側型では腰椎伸展位(椎間孔の狭小化)で症状が増悪しやすいです。
3.神経症状
腰椎椎間板ヘルニアは、L4/5間とL5/S1間の発生が圧倒的に多いです。
そのため、上記の表を参考にしていただくと神経症状の有無を確認しやすくなります。
画像所見と神経症状が合致する場合にのみ、ヘルニアの症状だと疑うことができますが、中には合致していないにも関わらず手術となるケースも少なくありません。
そのような患者は、当然ですが手術の結果も芳しく無く、むしろ症状が悪化する場合もあります。
4.腰椎椎間板ヘルニアと腰痛
神経を圧迫して起こるのは「痛み」ではなく「しびれ」だと書きましたが、脊髄や馬尾に関しては硬膜の影響も考慮する必要があります。
腰椎椎間板ヘルニアでは末梢神経の束である馬尾を圧迫することになりますが、その馬尾は椎間孔を出ていくあたりまで硬膜に包まれています。
硬膜には痛みを感じる受容器が存在しているため、ヘルニアによって圧迫されることにより、腰痛を引き起こす可能性があります。
そのことを考慮すると、多くの腰椎椎間板ヘルニア(傍正中型)による腰痛の疼痛誘発組織は硬膜といえます。
5.椎間板への負担を考える
腰椎椎間板症の記事でも書きましたが、椎間板変性を起こしやすいヒトというのは、腰椎から屈曲しやすい傾向があるので、姿勢や身体の動かし方についての指導が必要となります。
私が臨床でよく実施する方法としては、座位で膝関節の伸展運動、股関節の屈曲運動を実施してもらい、その時に腰椎の屈曲が入るかを確認します。
屈曲しやすい場合は、患者に腰椎の棘突起を触ってもらい、腰が飛び出ないように注意しながら普段から姿勢を保つようにしてくださいと説明しています。
6.椎間板ヘルニアを起こしやすい姿勢
椎間板ヘルニアを起こしやすい不良姿勢(腰椎から屈曲しやすい姿勢)には特徴があり、下部体幹が後方に位置しているケースに起こります。
ケンダルの姿勢分類では、フラットバックやロードシスが該当し、とくにフラットバックは椎間板症や椎間板ヘルニアを最も起こしやすい不良姿勢となります。
7.腰椎椎間板ヘルニアのリハビリ治療
腰椎椎間板ヘルニアが自然治癒することはよく知られていますが、飛び出した髄核などが自然縮小する機序はいまだ明らかにされていません。
しかし、ヘルニア塊の辺縁に新生血管を伴う肉芽組織の形成とマクロファージを主とした炎症反応が起こることから、吸収には貪食作用が関与していると考えられています。
線維輪や軟骨終板よりも髄核に強い吸収反応は起こりやすく、線維輪から脱出した髄核は約3ヶ月ほどで消失するといわれています。
保存的治療が奏功せずに3ヶ月以上症状が継続する場合や、馬尾障害が認められる場合は手術の適応となります。
リハビリに関しては、ヘルニアが自然縮小するまでの間に症状が増悪しないように、神経症状が強まる姿勢をとらないよう生活指導を行います。
また、椎間板ヘルニアを引き起こすことになった不良姿勢の修正や、スポーツ習慣のある患者では動き方の指導などを必要に応じて実施してください。