腰痛の原因としても多い「腰椎椎間関節障害」について解説していきます。
この記事の目次
1.腰椎椎間関節障害の概要
リハビリの病名で「腰椎椎間関節障害」と書かれていることはほとんどないですが、患者の訴える腰痛が椎間関節であるケースは非常に多いです。
病名にならない理由としては、単純X線撮影やMRI撮影でも異常が見つからないため、異常所見として診断することができないことが挙げられます。
臨床的には、以下の項目に該当する場合は、腰椎椎間関節障害の可能性が高いです。
- 腰痛は片側に出現する(まれに両側の場合もある)
- 椎間関節を徒手的に圧迫することで痛みが再現できる
- 椎間関節が圧縮される姿勢(腰椎伸展、患側への腰椎側屈)で痛みが出現する
- 起床時に腰が曲げにくい
これらの項目に当てはまる場合は、椎間関節の関与が強く疑われます。
2.椎間関節障害の放散痛領域
椎間関節障害では、基本的に腰部片側に痛みを訴えることになりますが、L5/S障害に関しては約7割で殿部痛を伴います。
また、大腿外側や大腿後面部、鼡径部にまで放散痛が起こる可能性があるため、そのことを頭に入れた状態で評価していくことが求められます。
3.椎間関節が痛い理由
椎間関節の周囲には疼痛受容器が豊富に存在していることがわかっていますが、その中でも多裂筋の攣縮が痛みに強く関与しています。
多裂筋の深層線維は椎間関節に付着しており、その深層には、さらに関節包(白)、脂肪体(黄)、滑膜(緑)が存在しています。
腰椎伸展時には多裂筋が収縮することでそれらの組織を引き出していますが、収縮不全が存在すると引き出すことができず、関節内インピンジメントを起こします。
それが痛みの原因と考えられており、椎間関節の滑膜には疼痛受容器が存在しないので、関節包と脂肪体が主な疼痛誘発組織と考えられます。
4.椎間関節への負担を考える
椎間関節への負担は、腰椎伸展時や側屈時(患側)に高まります。
とくにカイホロードシスやスウェイバックといった下部体幹前方位となる不良姿勢では、下位腰椎の伸展が促されるために痛みを誘発しやすくなります。
長時間の立位姿勢では、徐々に姿勢保持筋が疲労していき、筋肉をあまり使わない弛緩姿勢(スウェイバック)をとりやすいので注意が必要です。
5.朝に痛みが出やすい
腰椎椎間関節障害では、朝に痛みが出やすいケースが多く、とくに起床時に腰が曲がらないといった訴えをする患者が多いです。
理由については想像の域を出ないですが、おそらくは寝ている間に椎間関節が伸展位で固まってしまい、そこから屈曲させることが難しくなるためだと考えています。
仰臥位をとると椎間関節は伸展位をとりやすく、さらにベッドが柔らかいと重い殿部が沈むことで伸展を強めることにもつながります。
そのため、どの時間帯に痛みが出やすいかをチェックすることは鑑別に有効であり、椎間板性腰痛などは朝よりも夕方のほうが出やすい傾向にあったりします。
6.椎間関節障害を起こしやすい姿勢
椎間関節障害を起こしやすい不良姿勢(腰椎から伸展しやすい姿勢)には特徴があり、下部体幹が前方に位置しているケースに起こります。
ケンダルの姿勢分類では、カイホロードシスやスウェイバックが該当し、とくにカイホロードシスは椎間関節障害を起こしやすい不良姿勢となります。
基本的にはそのような傾向があることは間違いありませんが、椎間板症(椎間板が潰れている状態)を伴っているケースでは、椎間関節障害を非常に起こしやすい状態となっています。
正常の立位では、体重の80%を椎間板が、残りの20%を椎間関節が受け止めるとされており、椎間板症ではそのバランスが大きく崩れることにつながるからです。
椎間板症の記事でも書きましたが、椎間板が潰れやすい不良姿勢というのは、フラットバックやロードシスといった下部体幹後方位にある姿勢です。
そのことを考慮すると、腰椎椎間関節障害は全ての不良姿勢で起こりやすい障害であり、腰痛の原因としては非常にポピュラーであるといえます。
7.腰椎椎間関節障害のリハビリ治療
カイホロードシスのような不良姿勢では、腰椎屈曲の可動性が低下しているケースが多いので、できる限りに拘縮を除去することが求められます。
具体的には、多裂筋や脊柱起立筋群のリラクゼーション、椎間関節のモビライゼーション、身体を丸めるようにして腰椎を屈曲させる運動を行います。
椎間関節モビライゼーションの方法としては、患者に側臥位をとってもらい、股関節と膝関節を屈曲させて椎間関節の関節面を体幹軸上に平行とします。
施術者は上下の腰椎棘突起を指先で把持し、棘突起間を引き離すようにしながら牽引を加えていき、動きがない(拘縮している)関節を中心に治療していきます。
椎間関節モビライゼーションは拘縮を除去する以外の目的で使用することもあり、それが多裂筋のリラクゼーションになります。
例えば、L4/5間に椎間関節障害(脂肪組織などのインピンジメント)が存在する場合は、そこに付着する多裂筋深層線維の収縮不全が考えられます。
収縮を促すためには他動的に伸張と短縮を繰り返させるとよく、徒手的に椎間関節を軽く引き離してはゆっくり戻すような動きを加えていきます。
方法は前述した拘縮除去のモビライゼーションと同じですが、違いはその強さであり、よりマイルドに実施することが求められます。
前述したように椎間関節障害は様々なケースに発生するので、なぜ発生したのかを考えるようにし、そのヒトに合った治療プログラムを組むようにしてください。