腰痛の原因としても多い「筋・筋膜性腰痛」について解説していきます。
1.筋・筋膜性腰痛の概要
リハビリの病名で「筋・筋膜性腰痛」と書かれていることは基本的にありませんが、患者の訴える腰痛が筋・筋膜であるケースは非常に多いです。
筋肉には「硬くなりやすい筋肉」と「弱くなりやすい筋肉」があり、その分類を知っておくと臨床もスムーズに入りやすい。
腰痛においては、腰方形筋や腰腸肋筋、多裂筋、腹斜筋などの攣縮が影響していることが多いです。
筋肉が硬くなる(緊張が増大する)原因は「攣縮」と「短縮」に分けられ、痛みを伴う緊張というのは筋肉が攣縮した状態を指します。
生理学的には、筋攣縮は「意識と関係なく筋の痙攣と虚血が生じている状態」と説明されており、無意識に力が入ってしまうような状態となっています。
筋・筋膜性疼痛について考えていく場合に、筋肉と同時に考慮しなければならない要素が「筋膜」です。
筋膜は、①筋内膜、②筋周膜、③筋外膜、④深筋膜、⑤浅筋膜の5つに分類することができますが、この中でも「深筋膜」が原因である場合を筋膜性疼痛といいます。
浅筋膜に関しては、厳密には「筋膜」と呼んでいいような組織ではなく、浅層の皮下脂肪から浅筋膜の間の滑走性障害がある場合に痛みを起こします。
そのため、治療においても筋肉に刺激を入れる必要はありません。
浅筋膜や深筋膜が疼痛誘発組織である場合は、広範囲にわたって痛みを訴えることが多く、特定の動きで痛みを再現することができます。
2.筋肉に対しての治療法
筋攣縮に対しての治療法としては、①静的リラクゼーション(マッサージ)、②動的リラクゼーション(筋収縮運動)があります。
筋短縮に対しての治療法としては、筋ストレッチングを行いますが、単純に強く伸ばしただけでは腱に負担をかけるだけで損傷を招くことにつながりかねません。
筋肉を長くするためには筋腱移行部を中心に伸ばして、筋節の数を増やす必要があります。
軽い伸張位から等尺性収縮を行うことで筋腱移行部を中心に伸張ストレスをかけることができますが、最も筋節を増やすことができるのは弱い負荷での長時間ストレッチングといわれています。
3.筋膜に対しての治療法
浅筋膜へのアプローチは、皮下脂肪をさする程度の軽い圧であり、痛みのある周囲を中心に滑りの悪い部位をマッサージしていきます。
深筋膜へのアプローチは、皮下脂肪をつまんで動かす方法や、垂直に圧を加えて硬結部位を解きほぐしていく方法があります。
筋膜に影響を与えている因子として、前述した筋肉の短縮・攣縮に加えて、足関節捻挫や肉離れなどの過去の外傷(炎症性疾患)による筋膜の滑走不全が存在している可能性があります。
筋膜に問題が生じている場合は、①伸張時痛、②収縮時痛(短縮時痛)、③筋出力の低下、④不良姿勢などの問題が生じます。
4.筋・筋膜性腰痛(後方型)
筋・筋膜性腰痛(後方型)に深く関与している筋肉は、脊柱起立筋群(とくに腰腸肋筋)と多裂筋になります。
アナトミー・トレイン(筋膜の外層を通じて機能的な力伝達の共通の経路を説明しようとした理論)においては、SBL(スーパーフィシャル・バック・ライン)が疼痛に深く関与しています。
深筋膜上の強い繋がりを知っておくことで、痛みが下肢などに波及するイメージがしやすくなり、治療が必要なポイントも見つけやすくなります。
深筋膜は硬くなりやすいポイントが決まっており、後方型の場合は、腰腸肋筋と胸最長筋のトリガーポイントあたりが有効な治療点となります。
協調中心とは筋膜マニピュレーションの考え方のひとつですが、筋力のベクトルが収束する深筋膜上の明確な点で、東洋医学の経穴(いわゆるツボ)と非常に類似した分布を示します。
腰腸肋筋のトリガーポイント(体幹後方の協調中心)は多裂筋との筋間に位置しているため、肘などで筋間を押圧するように刺激を入れると効果的です。
5.筋・筋膜性腰痛(外方型)
筋・筋膜性腰痛(外方型)に深く関与しているのは腰方形筋であり、筋・筋膜性腰痛の中でも最もポピュラーな筋肉のひとつです。
アナトミー・トレインにおいては、DFL(ディープ・フロント・ライン)に属しており、腰方形筋は体幹伸展に作用すると書かれている場合もありますが、深筋膜の繋がりで考えると伸展系の制御に関与すると考えられます。
腰方形筋の治療点はいくつか存在し、第12肋骨下方と腸骨稜、脊柱起立筋群との筋間は圧痛点の好発部位になります。
6.筋・筋膜性腰痛(回旋型)
筋・筋膜性腰痛(回旋型)に深く関与しているのは内・外腹斜筋であり、筋・筋膜性腰痛の中でもポピュラーな筋肉のひとつです。
アナトミー・トレインにおいては、LL(ラテラル・ライン)に属しており、回旋の動きと同時に側方の動きの制御にも関与しています。
内腹斜筋の治療点としては、第11肋骨および12肋骨下方は圧痛点の好発部位になります。
腸骨側方にて腹斜筋と殿筋群は筋膜で連結しており、大殿筋や中殿筋などの緊張も影響してくるので、必要に応じてアプローチしていくことが求められます。